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前ページゼロのデジタルパートナー ルイズとメガドラモンのメガは、彼女の部屋に居た。 メガが、使い魔と言うのがどう言う物か分からないから教えて欲しい。と言ってきたので、ルイズは丁寧に教える事にした。 しかしそれは少々難航した。何故なら、そもそもメガは「魔法使い」すらも知らなかったのだ。 「大体は分かった。要するに、ルイズ様の身の回りの世話と護衛をすれば良いのか」 飲み込みが早いメガが、使い魔の仕事を要約する。 ルイズが自分の事は様を付けて呼ぶように、と言ったので素直に実行しているが、口調が変わっていないので少々違和感がある。 ちなみに、感覚の共有は出来なかった。秘薬の探索も無理だろうな、と考えて話題には出さなかった。 「そう言う事よ。メガは洗濯とか出来……ないわね」 メガの金属の腕を見て、ふう、とルイズは溜息を吐いた。 何でそんなものを着けているのか、と言う質問に対し、メガは「元々こうだ」と答えた。 最初は信じなかったルイズであったが、嘘を言っている風にも見えなかったので、そう言うものなのだ。と無理矢理納得する事にしたのだ。 しかし洗濯に関するメガの返答は、少々ルイズを驚かせるものだった。 「出来るぞ」 「え?」 「やった事もある」 前のパートナーに付き合わされた。とは言わなかった。言う必要をメガは感じなかったからだ。 「ほ、ほんと?」 「ああ。それなりに自信もある」 ルイズが顔が綻ぶ。これも、未だかつて級友達が見た事の無いだろう表情だ。 言う事を素直に聞いて、頭も良くて、強くて(多分)、洗濯も出来る。正しく夢の様な使い魔ではないか。 ……感覚の共有は出来ないが。 しかしそんな事は些細な事だ。ルイズは更なる期待に胸膨らませながら、一応聞いてみた。 「掃除は?」 ルイズの質問に、メガは一度室内を見回してから答えた。 「これ位なら大丈夫だろう」 「わーい」 メガの質問に、即行抱き着くルイズである。 筋肉隆々だが自分が抱き着けば柔らかく迎えてくれる。我ながら素晴らし過ぎる使い魔を召喚したものだ、とルイズはまたしても笑いを堪え切れずに居た。 「ところでルイズ様。そろそろ眠りたいのだが」 メガのお願いに、ルイズがそうね、と頷く。 「じゃあ一緒に……は、無理ね」 「床で良い」 「そ、そお? じゃあそうして貰おうかしら……」 些か心苦しいルイズであったが、メガが本当に眠たそうな眼をしていたので、提案を受け入れた。 調子に乗ってメガの頭におやすみのキスまでする。 メガも特に咎めるでも抗うでも無く、それが「寝て良い」と言う合図なのだと受け取り、尻尾で身体を包んで眠りに落ちた。 ルイズもそれを見届けて、服を脱いでから布団に潜った。 そしてこれからの自分の生活に胸躍らせながら、夢の中に落ちていった。 朝、メガの眼が覚める。 起き上がると、ルイズはすーすーと寝息を立てて眠っていた。 ルイズが寝ている傍には、服が脱ぎ捨てられている。 これを洗えば良いのだろう。とメガは思い、三つの爪しかない腕で器用に集める。 ……ここで問題が生じた。何処で洗えば良いのだろう? パートナーの洗濯を手伝っていた時は、冒険の所々、水場で洗っていた。 どうしたものかとメガが悩み始めた頃、窓の外を一人の少女が洗濯物を持って歩いているのを見つける。 彼女に聞こう。そう思い、素早くメガは窓を飛び出した。 「よいしょ、よいしょ」 小さな身体で大量の洗濯物を運んでいるメイド、シエスタの前に突然竜が降りて来た。 それだけならまだ良い。この学院ではよくある事だ。 だが次の瞬間、シエスタが驚愕の声を上げる。 「洗濯が出来る場所を教えてくれ」 「しゃ、喋った!」 シエスタのその反応に、メガはちょっとムッと来た。 昨日も思ったが、俺が喋る事がそんなに変なのか? メガがそんな事を考えている内に、シエスタはある噂を思い出した。 「も、もしかして……ミス・ヴァリエールの使い魔さんですか?」 「ミスバリエル?」 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール様です」 そう言われ、ああ、とメガが頷く。 「そうだ」 「や、やっぱり!」 あのゼロのルイズが、珍しい韻竜の子供を召喚した。 その噂はメイド達の耳にも届いていたのだ。 「洗濯が出来る場所を教えてくれ」 「あ、はい。こちらです」 先ほどと同じ言葉を繰り返したメガに、シエスタは答え、洗濯場への道案内をした。 「へ~、器用なんですね~」 シエスタが感嘆の言葉を漏らした。 メガは大きな樽に水を入れて貰い、その上で両手で服を破らないように掴み、尻尾でぱちゃぱちゃと服を洗っている。 その姿は外見と雰囲気に似合わず、何処か可愛らしくもあった。自然とシエスタが微笑みを浮かべる。 一着を洗い終えた所で、メガの腕が止まった。 「……どうしました?」 「面倒だ。……どうせだからそれも貸せ」 ルイズの服を樽の中に入れ、尻尾で巻き取ったシエスタの分の洗濯物も一緒に入れる。 更に自分の尻尾を樽の中に入れ、振り回す。 するとどうだろう。樽の中で渦が発生し、洗濯物の汚れが見る見る内に取れていく。 時々逆回転する事により、見事に揉み洗いの効果を生み出していた。 「す、凄いですわ!」 シエスタがまたも感嘆する。 そんな様子を見て、メガは思う。最初は偶々無いだけなのかと思っていたが、違ったようだ。 (……現実世界には、洗濯機って無いんだな) 正しいのだが、やはり間違っているメガであった。 その後、メガはシエスタと協力して脱水を行った。 シエスタに感謝されつつ、メガは自分の洗濯物を抱えてルイズの部屋に戻って来た。 見ると、ご主人様はまだすーすーと寝息を立てている。 既に辺りからは人間達の声なども聞こえる。 身の回りの世話。と言う事は起こすのも入るんだろうな、と思い、メガはルイズの綺麗な寝顔を軽く尻尾でペチペチと叩いた。 「んん~……」 「ルイズ様。朝だ。起きろ」 起きない。メガは困った。これ以上は手荒くなる。 仕方無いので起きるまで尻尾で叩くする事にした。 「う~……あ、スパゲッティ」 「何を……、ッ! UGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」 メガが叫びを上げる。咆哮と言っても良い。 どんな夢を見たのか、ルイズが自分の顔を叩くメガの尻尾に思い切り噛み付いたのだ。 学院中に叫び声が響き、流石にルイズも目を覚ます。 尚その後、隣室の生徒達に「ゼロのルイズが使い魔を怒らせた」と噂を流された事は、言うまでもない。 流石に服を着せてもらうのは出来ないと踏み、ルイズは自分で着替えた。 その間、何度も何度も噛んだ事に対し謝っていたが、メガは「大丈夫だ」と答えるばかりで、余計ルイズを不安にさせた。 だが部屋を出ようとした時にメガが何も言わずにルイズを背に乗せてくれたので、もう一度ルイズはごめんなさいを言って、メガの首を抱き締めた。ちゃんと弱くだ。 二人が部屋を出ると、部屋の前でルイズより背の高い褐色の肌で燃えるような赤い髪の女が立っていた。 一番目と二番目のブラウスのボタンを外して凶悪な胸元を覗かせ、それによって元より溢れている色気が殺人的な威力を見せている。正常な女性とデジモンには関係の無い所だが。 「おはようルイズ。朝っぱらから迷惑な子ね」 「ほっといてよね」 キュルケのからかいに、メガの背でルイズが頬を膨らませる。 「ふぅ~ん、で、その子が貴女の使い魔、ねぇ……」 目を細めて、キュルケがメガを見つめる。 メガはと言えば、キュルケでは無く、その隣の生物に興味があるようだ。 「そうよ。あんたのサラマンダーなんかとは比べ物にならないんだから!」 へん。とルイズが無い胸……ではなく、未だ育つ可能性があるかもしれない胸を張って、鼻を伸ばす。 その言葉に、珍しくキュルケが、確かにね。と頷いた。 「私のフレイムに文句があるワケじゃないけど、そんな立派なのを召喚するなんてねぇ……貴女が」 「きゅるるるる」 先ほどからメガが見つめていたキュルケの使い魔、フレイムがのそのそとメガの前に歩いてくる。 メガも頭を下げて、フレイムの頭を軽く小突く。ちなみに高度も一緒に下がっているので、ルイズが落っこちるなんて事は無い。 きゅるる。グゥゥゥ。きゅるるるる。ウァガ。 二匹の謎のやり取りに、ルイズもキュルケも興味深そうに見入っていた。 暫らくすると、メガが身体を起こし、フレイムがキュルケの傍に戻った。 『なんて?』 二人の問いが重なる。 「貴方の事、つまり俺を兄貴と呼ばせてくれ。それと自分の主人とも是非仲良くしてくれ。……だそうだ」 メガが軽い説明をする。 まあ、とキュルケがフレイムの頭を撫でる。ルイズは前半については勝ち誇ったように、後半については渋るようにと、実に難しい表情をしていた。 そんなこんなで、主人の争いは使い魔同士の微笑ましいやり取りによって、いつの間にか消沈していた。 食堂でもメガは実に大人しかった。 最初ルイズは、子供で小さいとは言え、韻竜を食堂に入れて良いものか。と悩んだが、見せびらかしたいと言う珍しいものを手に入れた時の、誰にでもある感情が打ち勝ち、連れて行く事にしたのだ。 床で食べさせようかとも思ったが、なんとなく餌付けをしたい気持ちがまたもや打ち勝ってしまう。ルイズはメガを自分の隣に控えさせ、適当なものを与えながら自分も食事をした。 隣の生徒がビクビクしながら食事をしていたのは言うまでも無い事である。 食事も無事に終わり、ルイズはメガの背に乗って悠々と学院内を移動する。擦れ違う生徒達の視線が非常に心地良いルイズであった。 もう誰も自分を『ゼロ』とは呼ばない。そう思っていたルイズだったが、その考えが大きな間違いだったと気付くのに、そう時間はかからなかった。 例によって例の如く、ミス・シュヴルーズの授業でルイズが盛大な失敗をやらかしたのだ。 勿論彼女は『ゼロ』と揶揄され、使い魔を召喚しただけでは『ゼロ』の汚名は消えない。自分が使い魔に見合う能力を手に入れなければならないのだと、否応無しに気付かされた。 そんな授業の後、片付けをしているルイズとメガ。 ルイズはちらちらとメガを窺いながら、掃除をしている。メガは自分に落胆していないだろうか。失望していないだろうか。そんな考えは浮かんでは消え、浮かんでは消えた。 だがメガは、無表情で自分に与えられた仕事をこなしている。と言っても、メガの表情は極端でなければ上手く読み取れないので、無表情かどうかは分からないが。 暫らくして遂に痺れを切らしたルイズが口を開いた。 「ねえ、メガ。どう思う?」 「……何をだ?」 掃除の手を止め、メガがルイズに顔を向ける。 「その……私を、よ。『ゼロの』ルイズを」 「……ああ」 少し考える素振りを見せてから、メガが口を開いた。 「悪く無い」 「ば、馬鹿にしてるの!?」 「いや。そうじゃないさ、決して。……じゃあルイズ様、なんでお前はあれが悪い事なんだと思う?」 「え?」 今まで言われた事も無い言葉。ルイズは少し戸惑った。 メガは魔法の事を知らなかった。それに今も詳しくは知らないだろう。だからこんな事を言ってるのだ。そんな風に考え、ルイズが言葉を探していると、 「他の人間が魔法を失敗すると、ああなるのか?」 「――あ」 「お前だけなんだろ? だからルイズ様は『ゼロのルイズ』と呼ばれている。だが、それは悪い事か? 俺が思うに、あれはお前がまだ未熟だからだ。そしてお前は、他の誰とも違うチカラを持っている。ルイズ様……お前、今まであの技の練習をしてきたか? してないだろ。だからそんな風に思ってるんだよ」 ぽつぽつと、少しだけ面倒臭そうに、メガは語る。 普段のルイズならとっくに激昂して反論している所だが、不思議と聞き入っていた。 「だから安心しろ。お前はきっと、誰にも負けないマホー使いになれる」 メガの言葉には根拠は無い。だが、確かにそうだ。有り得るかもしれない。と言う『希望』は、その言葉の中に確かにあった。 そうだ。とルイズは頷く。自分がああやって爆発を起こすようになってから、自分は鍛錬を怠っていなかっただろうか? あの術を、極めようとしただろうか? 確かに今思えばあの術は失敗なのかもしれない。だが、あんな突然の爆発は、誰も起こせない。自分しか出来ない。 なら、例えそれが失敗の結果なのだとしても……極めてみる価値はある。ルイズはそう思った。 「ありがと、メガ」 ルイズの感謝の言葉に、メガは少しだけ微笑んだように見えた。 「ところでルイズ様。このガラクタ共だが、マホーで片付けようとしたら失敗しました。と言って、ぶち壊すのは駄目か?」 「あんた天才ね」 メガの頭を撫で、ルイズが杖を取り出そうとするが、メガがそれを止める。 「俺がやる。爆発が悪い事ばかりじゃないって、教えてやるよ」 そう言うと、ルイズを自分の背に乗せ、メガ教室を出る。 確り俺の背中に隠れてろ。メガがそう言うと、廊下から教室に向けて両腕を翳した。 「ジェノサイドォォォッ! アタァァァァァァァァックッ!!」 メガの叫び。その次の瞬間、ルイズの失敗魔法とは非にならない爆音が響いた。 ルイズは後に知る事になるが、これこそがメガことメガドラモンの必殺技「ジェノサイドアタック」である。 メガの両腕から射出された生態ミサイルは、「YEEEEEAAAAAAAAAA!!」と奇声を上げながら教室の中心の床に激突し、爆発したのだ。 そうとも知らずにルイズは、メガが何らかの強力な先住魔法を使ったのだろうと、更なる期待に胸躍らせた。 尚、その後教室の机や椅子を破壊する所か、床をぶち抜き、壁を粉砕して大きな風穴を作るまでやってしまったルイズ――正確にはメガだが――が、かなりの叱咤を浴びた事は、やはり言うまでも無い事である。 更なる余談だが、その存在が幻とされる韻竜を召喚したルイズに気を良くしたヴァリエール家が、勿論その損害費を全て負担した。 前ページゼロのデジタルパートナー
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前ページ次ページ虚無のパズル 翌朝……。 鍾乳洞につくられた港の中、ニューカッスルから疎開する人々に混じって、ティトォは『イーグル』号に乗り込むための列に並んでいた。 先日拿捕した『マリー・ガラント』号にも、脱出する人々が乗り込んでいる。 (いいの?) ティトォの頭の中に、声が響く。 (黙って先に行っちゃってさ) 幼い女の子の声……、アクアの声である。 「ルイズのこと、怒らせちゃったから。顔合わせづらくて」 ティトォは小声で呟き、頬を掻いた。 (ありゃルイズだって悪いんだよ。あのガキ、癇癪持ちでどうしようもないね) アクアが鼻を鳴らす。まるで肩をすくめる仕草が見えるようで、ティトォは小さく笑った。 (それにしても、結婚式か……) 「うん」 (プリセラは、見たかったんじゃないかな……。結婚式) 「……そうだね」 ティトォとアクアは、魂の同居人に思いを寄せた。 と、そのとき。 急に、胸がざわざわとして、ティトォは小さく顔をしかめた。 この感覚は、ティトォのものではない。 「……プリセラ?」 不死の三人の最後の一人・プリセラの魂がざわめいて、ティトォの魂を揺らしていた。 さてその頃、ルイズは戸惑っていた。 今朝方早く、いきなりワルドに叩き起こされ、ニューカッスル城の敷地にある礼拝堂に連れてこられたのである。 始祖ブリミルの像が置かれている礼拝堂には、ウェールズ皇太子が待っていた。 周りに、他の人間はいない。皆、戦の準備で忙しいのだろう。 寝ぼけた目でぼんやり皇太子を見ていると、ワルドがルイズの耳に顔を寄せ、「今から結婚式をするんだ」と言った。 「え」 ルイズは思わず目をぱちくりとする。 結婚式?なにそれ。 寝起きの悪いルイズは、まだ自分が夢を見ているのかと思った。 呆然とルイズが突っ立っていると、ワルドはアルビオン王家から借り受けた新婦の冠をルイズの頭に乗せた。 魔法の力で永久に枯れぬ花があしらわれ、なんとも美しく清楚な作りであった。 甘い花の香りが、ルイズの鼻をつく。 どうやらこれは、夢ではないらしい。 いったい、何が起こってるっていうの? ルイズは昨日の、ティトォとのやり取りを思い出す。 (わたし、ワルドにプロポーズされたの。今決めたわ。わたし、ワルドと結婚するわ。あの人、頼りがいがあるから、きっと安心ね) あれは、ティトォへの当てつけで、つい口にした言葉だった。 ラ・ロシェールで受けたプロポーズへの返事をどうするかは、実際のところ、まだ悩んでいた。 もしかして、ワルドは昨日の話を、どこかで聞いてたのかしら。 それで、わたしがプロポーズを受けたのだと思ってるのかしら。 ええ、そんな。どど、どうしよう。 「あのね、ワルド。えと、その」 ルイズがあたふたしているうちに、ワルドはルイズの黒いマントを外し、同じく王家から借り受けた純白のマントをまとわせた。 新婦しか身につけることを許されぬ、乙女のマントであった。 「そそ、そのね。ふ、不幸な行き違いがあったと思うの……」 ルイズはしきりに手をいじりながら、ごにょごにょと呟いた。 「似合っているよ、ぼくのルイズ」 ワルドがうっとりと声をかける。 ルイズのつぶやきは、ワルドの耳にはまったく届いていなかったようだ。 ルイズは本当に困ってしまった。 どうしよう。どうすればいいんだろう。 「あのねワルド」 「では、式を始める」 ルイズが口を開くのと同時に、ウェールズがおごそかに宣言した。 その言葉に、ルイズの隣に立ったワルドが、恭しく一礼した。 ダメだ。ダメだこの人たち。 人の話、全然聞いてない。 「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、妻とすることを誓いますか」 ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。 「誓います」 ウェールズはにこりと笑って頷き、今度はルイズに視線を移した。 「新婦、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」 朗々と、ウェールズが誓いのための詔を読み上げる。 「いえ、ですから……」 ルイズは困った顔でウェールズに進言しようとした。 これは、ワルドの早とちりなんです。ふたりの間に、ちょっとした誤解があったんです…… 「……汝は始祖ブリミルの名に置いて、このものを敬い、愛し、夫とすることを誓いますか」 ルイズはハッとなって、ウェールズを見る。 ウェールズは明るい紫のマントを身に纏い、七色の羽を着けた帽子をかぶっている。アルビオン王家の礼服である。 ウェールズの後ろには、両手を前に突き出した始祖像が鎮座している。 困惑していて気付かなかったが、これは正式な結婚式だ。 略式とはいえ、始祖の前に誓う婚礼の儀である。 ルイズは気付いた。今、答えを出さなくてはいけないのだ。 決心がつかずにのらりくらりとかわしていた、ワルドのプロポーズへの返事を出すのが、今なのだ。 ルイズは俯いて、考える。 相手は、憧れていた頼もしいワルド。 幼い頃に交わした結婚の約束、それが現実のものになろうとしている。 でも、ちょっと話が急すぎない? プロポーズを受けた(とワルドは思っている)次の日に結婚式だなんて。 そんな話、聞いたことないわ。 キュルケの奴が『殿方は強引なくらいじゃなきゃだめよ』なんてのたまってたけど、これはあんまり強引すぎじゃないかしら。 「緊張しているのかい?仕方がない。初めての時は、ことがなんであれ、緊張するものだからね」 そういってワルドはにっこりと笑った。 ウェールズが続ける。 「まあ、これは儀礼にすぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味がある。では繰り返そう。汝は、始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し……」 式は、ルイズの与り知らぬところで続いている。 ルイズはなんだか腹が立ってきた。 ルイズの脳裏に、昨日の夜の、ティトォやウェールズたちへの怒りが甦ってくる。傲慢な男たちへの怒りであった。 ワルドだってそうだ。強引で、なにもかも勝手に決めてしまってる。 そういうの、なんかいやだわ。気に入らない。 ルイズの心は、決まりつつあった。 でも、そんなことでプロポーズを断っていいものかしら? ワルドのことは、憧れだった。 魔法衛士隊の隊長ともなれば、結婚の相手としては理想的と言えるだろう。 それを「なんだか気に入らない」なんて言葉で、袖にできるものなのかしら? そんなの、何の理由にもなってないわ……。 ルイズは少し悩んだが、やがてふうっと息を付いた。 ルイズの脳裏に、ゆうべティトォに投げかけた言葉が思い出された。 (プロポーズを受けるかどうか、悩んでるわ。これは理屈じゃない、気持ちの問題よ) そうだ。これは、政略結婚でもなんでもない。 ならば結婚は、理屈でするものではない。 だったら自分の今の気持ちに、従ってみよう。理由なんて後から付いてくるわ。 「……夫とすることを、誓いますか」 ウェールズの言葉に、ルイズは小さく首を振った。 「新婦?」 「ルイズ?」 二人が怪訝な顔で、ルイズの顔を覗き込む。ルイズはワルドに向き直った。 そして、申し訳なさそうに目を伏せて言った。 「ごめんなさい、ワルド。あなたとは結婚しないわ」 いきなりの展開に、ウェールズは首をかしげた。 「新婦は、この結婚を望まぬのか?」 「その通りでございます。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、わたくしはこの結婚を望みません」 「……緊張しているんだ、そうだろルイズ。きみがぼくとの結婚を拒むはずがない」 ワルドはルイズの手を取って、言った。 「ごめんなさい、ワルド。憧れだったのよ。もしかしたら、恋だったかもしれない。でも、今は違うの」 「あの使い魔か?あの男に恋したのか、ルイズ!」 「そんなんじゃないわ」 「ではなぜ!」 「本当にごめんなさい。でもワルド。今のあなた、なんだか気に入らないの」 ワルドの頬に、さっと朱がさした。 「ふざけるな!そんな理由があるもんか!」 ワルドは、ルイズの肩を掴んだ。その目が吊り上がる。熱っぽい口調で、ワルドは叫んだ。 「世界だルイズ!ぼくは世界を手に入れる!そのためにきみが必要なんだ!」 ルイズはワルドに怯えて、後じさった。 そりゃあ、あんな理由で結婚を拒んだのだ、ワルドはきっと怒るだろうとは思っていた。 しかし、ワルドの豹変ぶりは尋常ではない。歪んだ目の光が、爬虫類を思わせるような冷たいものに変わっている。 「ルイズ、いつか言ったことを忘れたか!きみは始祖ブリミルに劣らぬ、優秀なメイジに成長するだろう!きみは自分で気付いていないだけだ、その才能に!」 ワルドの剣幕に、ルイズは震え上がった。ルイズの知っているワルドではない。いったい何が、彼をこのような物言いをする人間に変えてしまったのだろうか? 見かねたウェールズが、間に入ってとりなそうとした。 「子爵……、きみはフラれたのだ。いさぎよく……」 「黙っておれ!」 ワルドはその手をはねのける。 ウェールズは、ワルドの言葉に驚き、立ち尽くした。 ワルドはルイズの手を握った。ルイズはまるでヘビに絡みつかれたように感じた。 「ルイズ、きみの才能がぼくには必要なんだ!」 ルイズはワルドの手を強引に振りほどき、きっとワルドを睨みつけた。 「あなたのこと、気に入らなかった理由がやっとわかったわ」 ルイズの肩は、怒りで震えている。 『なんだか気に入らない』程度だったワルドへの感情は、はっきりとした嫌悪に変わっていた。 「あなた、ちっともわたしを愛してないじゃない。あなたが愛しているのは、あなたがわたしにあるという、ありもしない魔法の才能だけ。そんな結婚、死んでもいやよ!」 ワルドはまたしてもルイズに掴みかかろうとする。しかし、その行く手にウェールズが立ちはだかった。 ウェールズは、ワルドに杖を突きつけている。 「見苦しいぞ、子爵!今すぐにラ・ヴァリエール嬢から離れたまえ!」 ワルドはやっと身を引くと、どこまでも優しい笑顔を浮かべた。 しかしその笑みは、嘘に塗り固められていた。 「こうまでぼくが言ってもだめかい?ルイズ。ぼくのルイズ」 「いやよ、誰があなたと結婚なんかするもんですか」 ワルドは天を仰いだ。 「この旅で、きみの気を惹くために、ずいぶん努力したんだが……」 両手を広げて、ワルドは首を振った。 「こうなってはしかたない。ならば目的の一つは諦めよう」 「目的?」 ルイズは首をかしげた。どういうつもりだと思った。 ワルドは唇の端を吊り上げると、禍々しい笑みが浮かべた。 ワルドは右手を掲げると、人差し指を立てて見せた。 「そうだ。この旅におけるぼくの目的は、三つあった。ひとつはきみだ、ルイズ。きみを手に入れること。しかし、これは果たせないようだ」 「当たり前じゃないの!」 次にワルドは、中指を立てた。 「二つ目の目的は、ルイズ、きみのポケットに入っている、アンリエッタの手紙だ」 ルイズははっとした。心の中で、いやな想像がふくれあがる。 「ワルド、あなたまさか、貴族派に……」 「そして三つ目」 ワルドの『アンリエッタの手紙』という言葉で、ウェールズはすべてを察した。 「貴様、『レコン・キスタ』!」 ウェールズは杖を構え、呪文を詠唱した。 しかし、ワルドは二つ名の閃光のごとく杖を引き抜き、呪文の詠唱を完成させた。 ウェールズの呪文が発動しようという瞬間、ワルドの杖がウェールズの杖を薙ぎ払った。 ウェールズの水晶の杖は真っ二つに切り裂かれ、宙を舞う。 「三つ目は、貴様の命だ。ウェールズ」 ワルドは小さく呟き、ウェールズの胸を狙って杖を突き出した。 ルイズは立ちすくみ、その光景をまるでスローモーションの映像を見るかのように、見守っていた。 杖を中心に、青白く光る鋭い空気の渦が発生している。杖を刃と化す『風』の魔法、『エア・ニードル』だ。 ワルドの杖の切っ先が、今まさにウェールズの心臓を貫かんとしたとき……、 突然、がくんと身体を揺らし、ワルドの動きが止まった。 「なに!」 ワルドが困惑して、叫んだ。 ぐん、と見えない力で引っ張られて、ワルドの身体はウェールズから引き離される。 ワルドはそのまま、宙に浮いた格好で動きを封じられた。 「身体が、動かん……!貴様、何をした!」 ワルドが叫ぶ。 しかし、ルイズもウェールズもわけが分からず、困惑した目でワルドの姿を見ていた。 ふとワルドが、杖を握った、動かない右腕に目をやると、手の甲を何かが這い回っていた。 それは小さな蜘蛛であった。 よく見ると、ワルドの腕に、脚に、身体に、細い糸が絡み付いている。 ばかな。こんな細い糸が、身体の動きを封じているというのか? 「マテリアル・パズル」 礼拝堂の入り口から響いてきた声に、ウェールズと、ルイズ、そしてワルドは振り返った。 「魔法の炎で蜘蛛をパワーアップさせ、操った。そしてパワーアップした糸を出してもらった」 そこにいたのは、ハルケギニアでは珍しい、黒い髪と黒い目を持った少年。 『イーグル』号でアルビオンを脱出しているはずの、ティトォであった。 「ティトォ!」 ルイズが目に涙をいっぱいためて、叫んだ。 「貴様……」 ワルドが苦々しげに呟く。 「なぜにぼくの裏切りがわかった?ミョズニトニルン。きみに疑われるような真似は、しなかったつもりなんだがね」 「確かに、お前の行動におかしなところはなかった。ぼくは疑いもせず、『イーグル』号に乗り込むところだった」 ワルドは怪訝な顔になる。 「ならばなぜ?」 「勘さ」 「勘?勘だと!」 ワルドは驚いて、叫んだ。『勘』、それはこの少年に、もっとも似つかわしくない言葉に思えた。 ティトォはなにごとも細かく観察し、論理的に分析する人間だ。 『勘』などという曖昧なものにそって、行動するとは思えない。 「ぼくだけだったら、まんまと騙されてた。でもぼくの中のプリセラの魂が囁いたんだ。「ワルドはなんだか気に入らない」ってね」 女の勘ってやつかな、とティトォは呟いた。 そしてティトォは、火のような怒りを含んだ目で、ワルドを睨みつけた。 「よくもルイズを裏切ったな」 ルイズには、ティトォの黒い瞳の色が、一瞬青く色を変えたように見えた。 これはティトォだけの怒りではない。不死の身体に眠るアクアの、プリセラの怒りだ。 そして、結婚式でルイズを裏切ったワルドに、一番腹を立てているのはプリセラなのだ。 プリセラの魂が震え、ティトォの怒りを大きくしていた。 ワルドはティトォの言葉の意味がわからず、首をひねっていた。 しかしやがて残忍な笑みを浮かべて、言った。 「いやはや……、さすがは伝説の使い魔と言ったところか。きみには驚かされてばかりだよ」 妙に余裕を感じる口調である。 ティトォはいぶかしんだ。 「ルイズ、ウェールズ皇太子を連れて逃げるんだ」 ティトォの言葉に、ルイズははっとして、ウェールズに駆け寄った。 「ウェールズ様、こちらに……!」 「あ、ああ」 ウェールズは困惑していたが、その言葉に従い、ルイズの手を取った。 しかし…… どこに潜んでいたのか。突然、ウェールズの背後に長身の貴族が現れた。 その貴族は風のように身をひるがえらせ、青白く光る杖で、背後からウェールズの胸を貫いた。 ウェールズの口から、どっと鮮血が溢れ出る。ティトォの目が驚愕に見開かれる。ルイズは悲鳴を上げた。 ウェールズの身体が、どう、と床に崩れ落ちる。 杖を鮮血に染めた長身の貴族は、悠然とそこに立っていた。白い仮面が顔を隠している。 ルイズは腰を抜かしてへたり込んだ。 この貴族は、ワルドのグリフォンに乗っていた……! 仮面の貴族は、ふわっと身を翻らせると、ワルドの身体にからみつく蜘蛛の糸を杖で切り裂いた。 身体の自由を取り戻したワルドが、すたっと地面に降り立つ。 「ルイズ!」 ティトォがルイズとウェールズの元に駆け寄る。 右手に握ったライターから、大きな火柱が燃え上がっている。 「ホワイトホワイトフレア、この者の傷を癒せ!」 ティトォはウェールズの身体に、魔法の炎を叩き込んだ。ウェールズの全身に、炎が燃え広がる。 「無駄だよ、心臓を貫いたのだ。ウェールズは即死さ」 せせら笑うワルドと、その隣に立つ仮面の男を、ティトォは睨みつけた。 そして、奇妙なことに気が付く。 身長、呼吸の間隔、骨格、全身のバランス。この二人は『すべてが同じ』なのだ。 「風の遍在〈ユビキタス〉……」 「おや、さすがだね、一目で見抜くとは。やはり『遍在』を隠しておいて正解だったよ」 仮面の貴族は、すっと顔に手を伸ばすとその真っ白の仮面を外した。 ルイズははっと息を呑んだ。その仮面の下から現れたのは、ワルドの顔だった。 二人のワルドが、こちらを見て笑っている。 「風のユビキタス。風は遍在する。風の吹くところ、何処となくさまよい現れ、その距離は意志の力に比例する」 「ラ・ロシェールで襲ってきた傭兵の手引きをしたのも……」 「その通り、ぼくだ。遍在は、それ自体が意志と力を持っているからね。離れたところでいろいろと動かせてもらった」 ワルドが得意げに語る中、跪くティトォの背後、ウェールズの身体がぴくりと動いた。かは、とウェールズの喉から空気が漏れる。 それを見て、ワルドの眉が吊り上がる。 「傷を塞ぎ、蘇生したというのか。どうやらきみの魔法を甘く見ていたようだな……」 ワルドの遍在が、薄笑いを浮かべて杖を構えた。 「だが、貴様はウェールズの治療で動けまい!二人まとめて、地獄に送って差し上げよう!」 ワルドを睨みつけるティトォの額に、冷や汗が浮かぶ。 ワルドの言う通り、ウェールズは危険な状態だ。完全に治療が終わるまでは、動かせない。 そのとき、杖を構える遍在の足下が爆発した。ぼごんっ!と激しい音が響く。 ワルドとティトォが振り向いた。杖を構えたルイズが、ワルドと遍在を睨みつけている。 ワルドが素早く杖を振るう。ルイズは風の障壁に横殴りに打たれ、紙切れのようにふっとんだ。 ルイズの身体は、ティトォとウェールズの近くまで転がって、ようやく止まった。 「ルイズ!」 「あぐ……」 全身の痛みにルイズが顔をしかめる。 「ルイズ。愚かなルイズ。きみは変わってしまったな。昔はぼくの言うことはなんでも聞き入れたのに」 「ふざけないで、変わったのはあなたよ……!トリステインの貴族であるあなたが、どうして!」 「我々はハルケギニアの将来を憂い、国境を越えて繋がった貴族の連盟さ。我々に国境はない。ハルケギニアは我々の手によって一つになり、始祖ブリミルの降臨せし『聖地』を取り戻すのだ」 ルイズが呪文を唱え、杖を振るう。しかし呪文はワルドにかすりもせず、ワルドの背後の壁を爆発させた。 ワルドが杖を振るう。風の刃が、ルイズの肌を薄く切り裂いた。 「うあ……!」 「共に世界を手に入れようと言ったのに、聞き分けのない子だ」 ティトォの手が、ルイズの肩に伸びた。ルイズの全身を炎がまとい、傷が消えていく。 二人のワルドは冷たい瞳で、ルイズを見下ろす。 「言うことを聞かぬ小鳥は、首を捻るしかないだろう?なあ、ルイズ」 遍在が呪文を唱えると、杖が青白く輝きだした。先ほどウェールズの胸を貫いた、『エア・ニードル』の呪文だ。 (結構なダメージでも、その炎が回復させてしまうからな……。このまま、一撃で確実に首を落とす) 遍在が杖を振りかぶる。 ルイズは恐怖に目をつむりそうになったが、気丈に遍在を睨みつけた。 怖い、逃げ出したい。でも。 負けるもんか。 薄汚い裏切り者なんかに、負けるもんか! 「ウル・カーノ……!」 ルイズが呪文を唱える。それより早く、遍在は杖を振るった。 しかし。 ぼごんっ!と激しい音が響き、爆発とともに遍在は吹っ飛んだ。遍在は、ワルドの背後の壁にぶち当たり、消滅した。 「何!」 ワルドがうろたえる。ルイズの詠唱より、確実に遍在の動きの方が速かったはずだ。 しかし実際には、先に発動したのはルイズの呪文だった。 「え……?」 ルイズも、あっけにとられた顔で自分の杖の先を見つめた。 信じられないくらい、身体が速く動いた。それだけじゃない。あの距離で魔法を外すことはないとは思っていたが……、なんだか『狙ったところに魔法が当たった』ような感覚があったのだ。 ワルドが杖を構え、呪文を唱える。 「ラナ・デル……」 「ウル・カーノ!」 ルイズが杖を振るのと同時に、ワルドは呪文の詠唱をやめ、飛び退った。ワルドの立っていた空間が爆発し、礼拝堂の床板を巻き上げた。 「なんだと!」 ルイズは確信した。 当たる。 今の自分は、狙った場所を爆発させることができる。 しかも爆発の威力も、いつもの失敗魔法より、数段上がっている。 「この力は、いったい……」 「……マテリアル・パズル。魔法の炎を、ドレス化して身に纏わせた」 ルイズの背後で、ウェールズを治療しているティトォが言った。 「魔法の炎は、生き物の潜在能力を引き出してくれる。蜘蛛をパワーアップさせたように、ルイズの身体能力・魔力・そして魔法のコントロール力を強化した!」 ティトォの叫びに呼応するかのように、ルイズの身体を纏う炎が、いっそう強く燃え上がった。 「……ルイズ」 ティトォが、苦しそうな声で言う。 「ぼくは、ウェールズ皇太子の治療で動けない。それに、残念ながらぼくは、あいつと戦えるだけの攻撃力は持っていない。……女の子に戦わせるようなことをして、申し訳ないと思う。情けないと思う。 そのかわり、ぼくの魔力は、できるだけきみに送る。ダメージも一瞬で回復させる。きみはぼくが命をかけて守る!だから、きみの力を貸してくれ!」 「……当然だわ!ワルドはハルケギニアを戦渦に巻き込もうとする『レコン・キスタ』の一員よ。それに、ウェールズ様やわたしをなんとも思わず殺そうとした。命をなんとも思わないゲスな男!」 ルイズは視線をワルドから外さずに、頷いた。 「トリステイン貴族として!あなたはここで倒す!」 「は!勇ましいことだ、小さなルイズ」 ワルドが笑う。 「もう、小さくないわ!」 ルイズが杖を振るうと、ドンドンドンと続けざまに爆発が巻き起こった。 ワルドは素早い動きで爆発を交わしながら、早口に呪文を唱える。 「ラグース・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ!」 『風』の二乗と、『水』ひとつのトライアングルスペル、『ウィンディ・アイシクル』。 空気中の水蒸気を凍らせた無数の氷の矢が出現し、ルイズに殺到する。 「ウル・カーノ・ジエーラ!」 ルイズが素早く杖を振るう。立て続けに爆発が起こり、氷の矢はすべて撃ち落とされた。 「やるね。しかしこの魔法は撃ち落とせないぞ!」 ワルドはすでに、次の呪文を完成させていた。ワルドの周りの空気が、バチバチと帯電している。 「『ライトニング・クラウド』!」 ルイズが魔法の正体に気付いた瞬間、ばちん!と空気がはじけた。ワルドの周辺から稲妻が伸び、ルイズに襲いかかる。 「きゃあああああ!」 身体にしたたかに通電し、ルイズは悲鳴を上げた。『ライトニング・クラウド』は、まともに受ければ命を奪うほどの危険な呪文である。電撃はルイズの胸を直撃し、そのショックで心臓が止まる…… 「ホワイトホワイトフレア!」 ティトォの叫びとともに、ルイズの纏う炎が勢いを増す。心臓はふたたび動き出し、電撃によって負った火傷もすべて消え去った。 「……っは、はあっ!」 ルイズは荒い息を付いた。身体にダメージがまったく無いことを確認すると、ふたたびワルドに向け杖を構える。 ワルドは小さく舌打ちをする。 やっかいだな。 ルイズの力は大幅に強化されている。しかし、ルイズは魔法発動のための媒体にすぎない。今、実質的にぼくが戦っているのは…… ワルドはルイズの背後、倒れ伏すウェールズの側に跪くティトォを見る。ティトォは、こめかみを指でトントンと叩きながら、ワルドのことをじっと見つめている。 ……実質的にぼくが戦っているのは、あの後ろにいる少年というわけか。ならば。 ワルドは口の端を吊り上げ、呪文を唱える。 「ラナ・デル・ウィンデ……」 空気の槌、『エア・ハンマー』が、礼拝堂の天井を砕いた。崩れた天井が、ティトォとウェールズに降り注ぐ。 「ティトォ!」 ルイズは素早く呪文を唱え、天井の破片を爆発で砕いた。 しかし、砕ききれなかった破片がティトォの頭にぶつかる。ごつ、と鈍い音が響き、額からつうっと血が一筋流れる。 ルイズがティトォたちに気をとられた瞬間、ワルドがルイズに襲いかかった。 「余所見をしたね。迂闊な!」 至近距離で『ウィンド・ブレイク』の魔法をくらい、ルイズは吹っ飛んだ。ごろごろと、ティトォの近くに転がる。 「ぐ……」 うめきながら身を起こすと、またも身体のダメージが消えていくのがわかった。 「このくらい、かすり傷よ。わたしのことより、あんたは皇太子の治療に専念して」 ルイズが、隣にいるティトォに言った。 「……でも、どうしよう。どうやって戦えばいいの?いくら魔力を強化したって言っても、相手は魔法衛士隊のスクウェアよ。戦いのセンスとか、勘とか、そういうのではわたしぜんぜん敵わないわ」 「わかってる。でも、もう少しだけ、ワルドを足止めしてくれ」 ワルドから視線を外さず、ティトォは言った。こめかみを指で叩き続けていて、額に流れる血を拭おうともしない。 「あと少し……、あと少しでわかるんだ」 「?……わかったわ」 よく分からないけど、ティトォはなにか考えがあるようだった。 ワルドが杖を振りかぶると同時に、ルイズも魔法を発動させた。 ワルドの真上の天井が爆発し、破片が降り注ぐ。さっきのお返しだ。 ワルドがばらばらと落ちる破片をかわした先に、爆発を起こす。巻き込まれるワルドを見て、ルイズはやった!と思ったが、ワルドは無傷だった。風の障壁で爆発をいなしたようだ。 すぐさまワルドが、『エア・カッター』をルイズに撃ってきた。ルイズは素早く魔法をぶつけ、『エア・カッター』を相殺する。 ワルドが忌々しげに呟いた。 「やはり、あの使い魔を先に仕留める必要があるか……」 あの少年を倒せば、魔法はじきに解ける。ルイズとウェールズの回復もできなくなる。 しかし、魔法の攻撃はルイズに撃ち落とされてしまう…… ならば…… 「イル・ウォータル・スレイプ・クラウディ……」 ぶわっ、とワルドのまわりから、白い煙が巻き起こった。いや、これは煙ではなく、雲だ。雲はみるみる礼拝堂に広がり、ルイズたちに襲いかかる。 「わぷ!」 綿菓子のように濃密な雲にまとわりつかれ、ルイズは思わず声を上げた。 いけない、この呪文は『スリープ・クラウド』!眠りの呪文だわ! あわてて口を塞いだが、魔法の炎を身に纏っているためだろうか、眠気には襲われなかった。 しかし、眠りの魔法にはかからなかったものの、濃密な雲がルイズの視界を奪っている。 ルイズははっとなった。 まずい、ワルドの姿が見えない! 「ティトォ!ティトォ、狙われるわ!逃げて!」 ルイズの叫びを聞きながら、ワルドはせせら笑った。 無駄だよ。治療の終わっていない皇太子は動かせない。それに、君たちからはぼくの姿は見えないが、ぼくにはちゃんと見えている。『風』の流れを読むのは、ぼくの得意とするところなのだ。 しかし、あの使い魔の少年は得体が知れないからな。念には念を入れて…… 「ユビキタス・デル・ウィンデ……」 呪文を完成させると、ワルドの身体がいきなり分身した。風の遍在。しかも、その数は先ほどのように一つではない。 二つ……、三つ……、四つ……、本体とあわせて五体のワルドが現れ、ティトォににじり寄った。 ルイズは真っ白な雲の中、なんとかワルドの姿をとらえようときょろきょろしている。 ティトォは相変わらず、ウェールズに魔力を送りながら、こめかみを指でトントンと叩いている。 ワルドはにやりと笑い、小声で呪文を呟く。すると、杖が青白く光りだした。『エア・ニードル』だ。 「さよならだ、『ミョズニトニルン』」 ワルドは静かにティトォの背後に忍び寄り、杖を振りかぶった。 トン、とティトォが、指でこめかみを叩くのをやめた。 「……よし」 口の端を吊り上げて、ニッと笑顔を作る。 「できた!」 ワルドが杖を振り下ろした。首を正確に狙った、必殺の一撃だ。 しかしティトォはふっと身をかがめ、その一撃は空を切った。 「なに?」 ワルドが驚きの声を上げる。 「かわした?ばかな、見えているのか。いや……」 ティトォは変わらず前を見据えていて、その視線の先には、五人のワルドの誰もいない。 おまけに、ティトォのすぐ横に立っている、別の『遍在』にも、まったく気付いてないように見えた。 「……空気の流れを感じるとか、気配を察知するだとか、こいつにそんな能力はないはず。かわしたのは、偶然だ」 ワルドはふたたび杖を掲げ、ティトォを狙う。 「来る」 ティトォは呟くと、くいっと右手を動かした。 次の瞬間、ティトォの背後、杖を振りかぶった遍在が爆発した。遍在は吹き飛び、消滅した。 「なんだと!」 残った四人のワルドは驚き、飛び退る。 今のは、ルイズの爆発魔法だ。しかしなぜ、この雲の中『遍在』の位置がわかったんだ? 何が起こっているというのか。まったく説明がつかない。 一方、遍在に向けて魔法を放ったルイズも困惑していた。なにせ、自分の意志でなしに勝手に身体が動き、呪文を唱えたのだ。 (ルイズ、聞こえる?ルイズ) ルイズの頭の中で、声が響いた。 「ティトォ……、ティトォなの?」 それは果たして、ティトォの声だった。魔法の炎を通じて、ルイズの頭に直接言葉を伝えているのだ。 (目をつむって、ルイズ) 「は?」 (どうせ視界は閉ざされてるんだ。ぼくが炎を操ってきみを導くから、きみは炎の流れにそって動いてくれ) 「目をつむるって……、ええ、わかったわ」 ティトォの声には自信が宿っていた。その言葉を信じ、ルイズは固く目を閉じる。 ワルドは困惑していた。 「偶然の偶然だ……、でなければ説明がつかない」 そう呟くと、今度は2体の遍在を、一度にルイズに襲いかからせた。 「右方向から一人、杖に風の刃を形成しつつ突撃……、さらに背後でもう一人が左方向に6歩分移動、呪文を唱える」 ティトォはなにごとかぶつぶつと呟くと、炎を操りルイズの身体を動かした。 ルイズは杖を振るう遍在の一撃をかわし、背後で呪文を唱えるもう一体の遍在に爆発を叩き込み、消滅させた。 「ワルド、お前の戦闘行動は……」 ティトォが呟いた。 「すべて把握した」 ルイズはそのままぎゅるっと身をひねり、突っ込んできた遍在の鼻っ柱に、強烈なパンチを叩き込む。 魔法の炎で強化されたルイズの拳は、いともたやすく遍在の鼻を叩き折った。 遍在が痛みによろめくと、すぐさま魔法を叩き込む。至近距離の爆発を食らい、遍在は消滅した。 「ばかな……!」 ワルドが驚愕の声を上げる。 さらにルイズはこちらを振り向きもせず、魔法を放った。 ワルドの横に立っていた最後の遍在が爆発で吹き飛ばされる。 「ばかな!」 「子爵、あなたはぼくに、手の内を見せすぎた」 ティトォが誰にともなく呟く。 「この旅で、そしてこの戦いで、あなたが発した言葉の一言一句。あなたが見せた表情。あなたの動き。『すべて記憶している』」 記憶。 記録。 展開。 判断。 発想。 発祥。 計算。 創造。 「心の底からの、本気の言葉!本気の表情は!それはお前の真実のピース!断片を知ることで、お前のすべてを『透し見る』!これが、魔法と同じく100年の間に培われたぼくの能力、『仙里算総眼図』!」 ワルドは焦り、魔法をティトォに打ち込んだ。その魔法を、すかさずルイズが撃ち落とす。 身を翻し、ルイズに無数の風の刃を放ったが、撃ち落とすまでもなく、すべて避けられた。 「見えているんじゃない、読まれているんだ……、行動が……?思考が……?」 ワルドは狼狽し、ティトォを見る。 視界の効かないはずの雲の中で、ティトォははっきりとワルドの方を向いていた。 どくん、とワルドの心臓が跳ねる。 まずい、視界を奪った意味がない……! 悔しいが、ここは一旦引いて…… ワルドが後じさると、背後からルイズが飛びかかった。炎を纏った拳を、ワルドに叩き付ける。 「げふ!」 振り向きざま顔に一撃をくらい、ワルドはよろめいた。 ルイズの拳を受けたワルドの頬から、めらめらと白い炎が燃え上がった。ルイズの纏う魔法の炎が、ワルドに燃えうつったのだ。 炎はまたたく間にワルドの全身に燃え広がる。 ワルドはルイズから飛び退りながら、いぶかしんだ。 なぜ、回復魔法をぼくの身体に燃え移らせた……? ワルドの背筋に、ぞくりと悪寒が走る。まずい!と思った時には、もはや手遅れであった。 「マテリアル・パズル分解せよ!炎に、戻れッ!」 ティトォの叫びとともに、癒しの炎はその力を失い、すべてを焼きつくす業火となった。 「ぐあああああ!」 全身から炎を吹き出し、ワルドは悶絶した。炎はあっという間にワルドの全身を焼き、ぶすぶすと煙を上げた。 ワルドは口からもわっと煙を吐くと、どう、と倒れ込んだ。衝撃で取り落とした杖がカラカラと音を立てて床を転がり、礼拝堂を覆っていた眠りの雲が、さあっと晴れていった。 炎を纏ったルイズと、ティトォ、黒こげのワルド、そしてティトォの足下に横たわるウェールズの姿が現れる。 ウェールズの身体からは、すっかり傷が消え失せ、その顔には血色が戻っていた。 ティトォは、拳で胸を軽く叩くと、宣言した。 「我が勝利、魂と共に」 前ページ次ページ虚無のパズル
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ロレンソルイズ(ロレンソ・ルイズ) ロレンソルイスの別名。
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前ページ次ページゼロ・HiME 「ミスタ・ギトー、失礼しますぞ」 ルイズが静留の夢を見た翌朝。 朝一番に行われた風の属性魔法の講師ギトー氏の授業中、突然、教室の扉が開いて金髪のカツラを被り、豪華な衣装に身を包んだコルベールが入ってきた。 「何ですかな、ミスタ? 見ての通り授業中ですが」 ギトーはムッとした表情でコルベールを睨みつける。 「おっほん、突然ですが今日の授業は全て中止となりました」 コルベールの言葉に生徒達が歓声を上げる。それを手を振って抑えると、コルベールは話を続ける。 「恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、アンリエッタ姫殿下が本日ゲルマニアご訪問からお帰りにこの魔法学院に行幸なされます。したがって粗相があってはいけません。急なことですが今から全力を挙げて歓迎式典の準備を始めますので皆さん、正装し門に整列するように」 コルベールは生徒達が緊張した面持ちで一斉に頷くのを確認すると、慌しく教室から出て行った。 「……なんやえらい気合の入った格好したはりましたな、コルベールはん」 「そりゃ王族の方をお迎えするんだもの当然でしょ……それより私達も急いで準備するわよ」 「はいな」 静留はルイズに促され、一緒にルイズの自室へと向かった。 玄関まで敷かれた赤い絨毯の横に整列した魔法学院の生徒達が杖を掲げる中、王女の馬車が到着すると、衛士の声が高らかに響き渡った。 「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおな―――り―――!」 馬車の扉が開き、枢機卿のマザリーニに手を引かれて王女が姿を現すと、生徒達から歓声が沸き起る。 その歓声に王女が微笑を浮かべ、優雅に手を振って答えると、生徒の歓声が一層高まった。 「あれがトリステインの王女? 騒いでる連中には悪いけど、あたしの方が美人じゃない?」 「興味ない……離して……」 タバサに背中から抱きついたままの格好でそう言うキュルケと、それに素っ気無く答えるタバサの様子に苦笑しながら静留はルイズに声をかける。 「まあ、美人って感じやないけど、楚々とした可憐でかいらしい感じのお方や思いますえ……ルイズ様もそう思いまへんか?」 だが、ルイズは返事をせずに顔を赤らめ、惚けたように何かを見つめている。 それに気づいた静留がその視線の先を探ると、そこには豪華な羽帽子を被り、長い口髭を生やした凛々しい貴族の姿があった。鷲の頭と獅子の胴を持つ見事な幻獣――グリフォンに跨っている。 (いかにもって感じの二枚目やね……この手のタイプがルイズ様の好みなんやろか) そんなことを思いながら静留が貴族をじっくりと観察していると、ふいに貴族がこちらの方に顔を向けた。そして、ルイズに向かってにっこりと微笑みかける。 その瞬間、静留の背筋にぞくりと悪寒が走った。 それは一見、普通の笑顔にしか見えたかも知れない。だが、その目に別の感情が浮かんでいるのを静留は見逃さなかった。 (あの目は……黒曜の君の本性現した時と黎人さんと同じ……全てを自分の道具としか思うとらん人間の目や) 喧騒の中、相変わらず惚けているルイズをよそに、静留は一抹の不安を感じていた。 「――ルイズ様、いい加減に寝はったらどうどす」 その日の夜のこと。就寝時間を過ぎても心ここにあらずといった感じで部屋の中を徘徊し、なかなか寝ようとしないルイズに静留がたしなめるように声をかける。 昼間にあの貴族を見て以来、ルイズは一日中ずっと様子が変だった。何をするのも上の空で話しかけても生返事を返すだけ。時折、急に顔を赤面させぶつぶつと呟いたかと思うニヤニヤとだらしない笑顔を浮かべるその様は非常に奇異だった。 これは何かあると感じた静留は、貴族の素性を調べたが、分かったのはジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドという名前と、ルイズの故郷ラ・ヴァリエール公爵領の隣にある子爵家の当主であるということだけだった。 (まあ、今日は何聞いてもまともに返事はもらえんやろし……聞き出すのは落ち着いてからにしたほうがええやろね) 静留がそんなことを考えていると、部屋のドアがノックされた。 「誰どすか?」 静留はドアのほうへと声をかけるが、返事はなく、かわりに一定のリズムでノックの音が響く。 それを聞いたルイズは急にはっとして正気に戻るとベッドから立ち上がり、深夜の訪問者を迎えるべくドアを開いた。 そこに立っていたのは、真っ黒な頭巾をすっぽりと被った少女だった。 少女は警戒するように辺りを見回すと、そそくさと部屋に入り、小さく杖を振った。光の粉が部屋の中を舞う。 「……ディティクトマジック?」 「どこに目や耳が光っているかわかりませんからね」 少女はルイズの問いに頷くと、黒頭巾を取った。その下から現れたのはなんとアンリエッタ姫であった。 「姫殿下!」 ルイズが慌てて膝をつき、静留もそれに習って膝をつく。 「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」 アンリエッタは涼しげな声でそう言った後、感極まった表情を浮かべ、ルイズを抱きしめた。 「ああ、ルイズ、ルイズ! 懐かしいルイズ!」 「姫殿下、いけません。こんな下賎な場所へこられるなんて」 ルイズは慌てて身を離すと、かしこまった口調で王女に答える。 「ああ、そんな堅苦しい行儀はやめて頂戴! わたくしとあなたはおともだちじゃないの! ここには枢機卿も、母上も、あの友達面をして寄ってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ! ああ、昔馴染みの懐かしいルイズ・フランソワーズ、あなたにまで、よそよそしい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!」 「姫殿下……」 そのアンリエッタの言葉にルイズは顔を上げ、感動した面持ちでアンリエッタと見詰め合う。 そんな空気を邪魔するように静留がごほんと咳払いをすると、ルイズに尋ねる。 「それでルイズ様……王女様とはどういったお知り合いなんどす?」 「姫様がご幼少のみぎり、恐れ多くも遊び相手を務めさせていただいたのよ」 静留の問いにルイズは懐かしむように目をつむって答えた。それを聞いたアンリエッタが暗い表情で呟く。 「……あの頃は毎日が楽しかったわ、なんの悩みもなくて」 「姫さま?」 ルイズは心配そうにアンリエッタの顔を覗き込む。アンリエッタはそのルイズの手を取って、にっこりと笑って言った。 「結婚するのよ、わたくし」 「……おめでとうございます。」 その声に悲しみを感じ取ったルイズは、沈んだ声で答えた。そこでアンリエッタは、ルイズの後ろで控えている静留の存在に気づいた。 「あら、ごめんなさい。ルイズ以外はいないものだとばかり……もしかしてルイズのおともだちですか?」 「いえ、うちはルイズ様の使い魔どす」 「使い魔?」 アンリエッタはきょとんとした顔で静留を見た。 「人にしか見えませんが……」 「……なぜか儀式で人を召喚してしまいまして」 アンリエッタの問いにルイズは恥ずかしそうに答える。 「はぁ、ルイズ・フランソワーズ、あなたはいつもどこか変わっていたけど、相変わらずね」 「はあ……」 乾いた笑いを浮かべるルイズに気づかず、アンリエッタが深いため息をついた。 「どうなさったんです?」 「別になんでもないわ。ごめんなさいね……あなたに話せるようなことではないのに……わたくしってば……」 「姫さま、何かお悩みがおありなら、どうぞおっしゃってください。わたしをおともだちと呼んでくださったさっきのお言葉が嘘でないなら」 「ありがとうルイズ・フランソワーズ、とても嬉しいわ」 ルイズの言葉にアンリエッタは嬉しそうに微笑んだ後、決心したように口を開いた。 「実はわたくし、ゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったのですが……」 「ゲルマニアですって! 何故姫さまがあんな成り上がりどもの野蛮な国に嫁がなければならないのですか!」 「でも、仕方ないのです。ゲルマニアと同盟を結ぶために必要なことですから」 そう言うとアンリエッタは憤慨しているルイズをなだめる様に、ハルケギニアの政治状況について話し始めた。 アルビオンの貴族たちが反乱を起こし、今にも王室が倒れそうなこと。もし反乱軍が王室を倒したら、大陸統一を掲げる彼らは次にトリステインに進攻してくるであろうこと。 それに対抗する為、トリステインは帝政ゲルマニアと同盟を結ぶことになったこと。同盟成立の条件として、アンリエッタがゲルマニア皇室に嫁ぐ事になったこと……。 「そうだったんですか……」 「ええ、国を守るためなら、この身を捧げることも私は厭いません。それに王家に生まれた以上、望んだ相手と結婚できないことぐらい承知していますから」 アンリエッタはまるでなんでもないことのようにそう言うと、更に話を続ける。 「当然ながらアルビオンの貴族たちは、わが国とゲルマニアの同盟を妨害すべく、婚姻を妨げる材料を血眼になって探しています」 「……もしや、姫さまの婚姻を妨げるような材料が?」 ルイズが顔を蒼白にしてたずねると、アンリエッタは悲壮な表情で頷いた。 「わたくしがアルビオン王国のウェールズ皇太子に当てた一通の手紙です。それが公になれば婚姻は破棄され、同盟は反故となるでしょう」 「では、姫さまが私に頼みたいことというのは……」 「その手紙をアルビオンに行って極秘裏にウェールズ皇太子から回収してきて欲しいのです。正直こんなことをおともだちのあなたに頼むのは心苦しいのですが……でも、今、頼れるのはあなたぐらいしかいなくて」 アンリエッタはルイズの手を握って頭を下げる。それを見たルイズが二つ返事でアンリエッタの願いを受け入れようとした時、横で静かに話を聞いていた静留がくすりと小さな笑いを漏らす。 「……シズル?」 「ほんに、お姫さんやねえ……自分が何を言うとるか分かってへんのと違いますか」 静留の口からアンリエッタに向かって、嘲笑を含んだ冷ややかな言葉が放たれた――。 前ページ次ページゼロ・HiME
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前ページ次ページゼロの氷竜 ゼロの氷竜 二話 ブラムドはフライを唱えて飛び去っていく生徒たちを視線の端にとらえながら、目の前の年老いた人間から視線を外すことはなかった。 そしてそれはオスマンも変わらず、普段の好々爺然とした雰囲気は掻き消えていた。 ルイズは普段と違うオスマンの態度、この場に漂う張り詰めた空気に気圧され、言葉を発することができない。 「はじめまして、竜殿。わしはそこなミス・ヴァリエールが勉学に励んでいる、トリステイン魔法学院の院長をしておるオスマンと申す。よろしければ尊名をお聞かせいただけまいか?」 ブラムドは虚実を聞き分ける魔法を唱えながら、主であるルイズへ目線を投げかけた。 『虚言感知(センスライ)』 ルイズはオスマンとブラムドの間に視線をさまよわせながら、ブラムドに頷きかける。 小さな主よりの許可を得て、ブラムドはオスマンへ話しかける。 「老いた人の子よ、我が名はブラムド。フォーセリアと言われた世界、アレクラスト大陸の南に位置するロードス島、その北方にそびえる白竜山の主であった」 「丁寧な自己紹介いたみいる。だがわしはフォーセリア、アレクラスト、ロードスといった地名に心当たりがない。お尋ねするが、トリステイン、アルビオン、ガリア、ゲルマニア、ロマリアといった地名をご存知だろうか?」 「聞かぬな。試みに問うが、お主らの信ずる神の名は?」 神、という単語に、オスマンとルイズは不思議そうな顔をする。 神に近しいものといえば始祖ブリミルだが、神そのものという概念は存在しなかったからだ。 「神ではないが、わしらは6000年前に系統魔法を生み出したとされる始祖ブリミルを信奉しておる」 「そうか。我のかつていた世界には神が存在した。神の身ははるか古に滅びてしまったが、その奇跡を伝える人間たちがいた。神の力を借り、死者をもよみがえらせる使い手もいたという」 「なんと!? それはまことですかな!?」 目を見開いたオスマンは、同じような表情を浮かべるルイズと顔を見合わせる。 その驚きように、ブラムドはどこか得心したように考えていた。やはり、この世界は我のいた世界とは違うところなのだ、と。 「ふぅむ、非常に興味深いが、その話はまたいずれの機会にするとして、一つお願いがあるのだが、聞き届けていただけるだろうか?」 「願いの中身を話してもらわねば、是も非も答えることはできぬ」 「確かにそうじゃ。願いというのはブラムド殿の力がどれほどのものか、はかる魔法をかけさせていただきたいのじゃ。無論、調べるだけで他に害はない」 無論、虚実を聞き分ける魔法を唱えているブラムドには、オスマンの言葉に嘘がないことはわかっていた。しかし、ブラムドはあえて即答を避けた。 「主よ」 だが呼ばれたルイズは反応をしなかった。 巨大な竜が自らの使い魔となったこと、それに対する現実感の薄さが、ルイズの普段の明敏さを損なわせていた。 仕方なしにブラムドは今一度呼びかける。 「……ルイズ」 「はっはっはっ、はい? はい!」 どこか他人事のような、傍観者のような気分でいたルイズは、ブラムドに呼ばれたことに気付き、慌てすぎたせいで明らかにおかしな返事を繰り出した。 「オスマンはかように言ったが、我は構わぬと思う。ルイズ、許可はいただけるか?」 あえてルイズに許可を求めたブラムドに、オスマンは彼を信頼することに決めた。 少なくとも主といったルイズに対し、害をなすことはないだろうと。 「わ、私も問題ないと思います」 使い魔に対し、どこか教師へ受け答えするようなルイズの態度に、ブラムドとオスマンは共通した微笑ましさを感じていた。 「主の許可は下りた。思うとおりにするが良い」 「では、失礼する」 ディテクトマジックを唱え、ブラムドに秘められた力を見極めようとしたオスマンは、それが不可能であることを知った。 力が強すぎて己を物差しにして計ることができない。 海の大きさをコップや樽で測るような絶望感を覚える。そして、それほどの竜を使い魔としたルイズを賞賛してやりたかったが、それと相反するように苦悩せざるをえない。 複雑な表情を浮かべたオスマンに、ルイズは不安げな表情を向ける。 ブラムドは表情を変えないまでも、オスマンの態度に違和感を覚えた。 「何かおかしなことでもあったか?」 オスマンはブラムドの言葉にその顔を上げ、長いため息をつく。 「ブラムド殿、今わしにわかったのは、貴殿の力がわしにははかることができぬほど強いということです」 その言葉にルイズは喜色を浮かべるが、ほめるにしては態度がおかしいことが気にかかった。 「貴殿ほどの力を持つ竜を召喚し、使役したミス・ヴァリエールの才能は、わしを軽々と凌駕するものじゃろう」 その苦悶の表情に、ブラムドはオスマンが何を考えているのか想像がついた。 かつてブラムドがいた世界でも、強い力を持った魔術師たちが世界の覇権を握り、巨人族をはじめ、自らも含めた竜族や上位精霊など、本来人間のみでは太刀打ちすることのできない存在を打ち滅ぼし、あるいは屈服させた。 大陸全土を支配した魔術師たちの王国は結果として滅びたが、この世界でも同じことが起こらないとも限らない。 「身内の恥をさらすようだが、今この国に住む貴族どもには馬鹿者が多い。その馬鹿者どもに、これほど強い力があることを知られては困ったことになりかねん」 「困ったこと?」 かたわらの少女が疑問を浮かべる。 言葉に気付いた二つの視線が少女に集まり、少女はその体を固める。 二つの視線の主たちは微かな微笑を浮かべ、ルイズは頭上からの言葉を聞く。 「つまり、戦を始めるかも知れぬということだ。違うかな、オスマン」 「然り。……どこの国、いつの時代であっても人間は同じ事を繰り返すということですかな」 オスマンの寂しげな微笑みに、ブラムドは似たような表情で応える。 「じゃ、じゃぁどうすればいいんですか!?」 ルイズが悲鳴を上げる。 「主と使い魔が一心同体という前提がある以上、ブラムドだけを残していくことはできません。かといって学生である私が隠遁生活を送るのも無理です」 「……わかっておる。わかっておるのだ。ミス・ヴァリエール」 眉間に深い皺を刻み込むオスマンに、ルイズは感情を叩きつける愚かさを自覚する。 「申し訳ありません。オールド・オスマン」 「いや、気にせんでよろしい」 「オスマン」 落ち込む二人の人間とは対照的に、ブラムドはいたずらを思いついた子供のように楽しげに話しかける。 「何かな、ブラムド殿」 「先ほど我とは違う種だが、竜の姿を見た。であれば竜を使い魔とするのは不思議なことではないのだな?」 「ふむ。確かに竜を使い魔とする人間もおります。数は多くはありませんが……」 「問題は我の大きさということだな?」 「端的にいってしまえばそうですが、まさかその体を縮めるわけにもいきますまい?」 「問題はない」 こともなげなその言葉に、オスマンとルイズは二の句を容易に継ぐことができなかった。 「だが」 たった二文字の言葉に、二人の人間は居住まいを正す。 「お主やルイズと話をするのに、竜の姿は持て余すだろう。ならばいっそ人間に変わるのが良いのではないか?」 二人は呆けた。 文字通り思考が停止した状態にさせられた。 理由は至極単純なもので、想像もつかない高度な現象を、あたかも路傍の石を蹴飛ばす程度の気軽さで言われたからだ。 「ルイズを守るのが使い魔の役目であれば男の姿が良かろうが、共にすごすのであれば女の方が良かろう。どちらにする?」 二人の人間が、同時に口を開いた。 「おと……」 「女じゃ!!」 だが鈴の音を鳴らすような声が響きかけた瞬間、その見た目からは想像もできない張りのある声がさえぎった。 半拍の沈黙がその場を支配した後、オスマンは自らの叫びを継ぐ。 「ミス・ヴァリエール、お主が暮らしておるのは女子寮じゃ。無論学院内である以上、男が立ち入ることは絶対にならんというわけではないが、貴族の婦女子が生活する場に男がいる状況を作り出しては、子女を預かっているという立場を考えた場合、親御さんへの責任問題になりかねん。使い魔であれば特例という形はとれるが、問題の種は出来るだけない方が望ましい。わかってもらえるね? ミス・ヴァリエール!!」 オスマンはルイズの両肩に手を置き、熱意のこもった言葉を一息で言い切った。 当然、普段の緩やかなしゃべり方ではなく、その力強さは一軍を指揮する将のようだった。 だがその目はルイズを見ていない。 ルイズがその顔を仰ぎ見ようとすると、オスマンはさりげなく視線を逸らす。 少女の表情に不信感が満ち溢れるが、目の前の胡散臭い老人の言っていることは正論には違いない。 また、自身の通う学院の院長であることも考えれば、その提案に否やといえる立場でないことも確かだ。 不承不承という言葉がふさわしいように、ルイズはブラムドへ話しかける。 「……女でいいわ」 ブラムドとしては男になろうが女になろうが労力は変わらない。 ルイズの表情が気にかかりはしたが、その口から出た以上は命令といって差し支えない。 「心得た」 ブラムドが詠唱を始める。 オスマンの目がブラムドへと向く。 その瞳を見たルイズは言い知れぬ不安に襲われた。 『変化(ポリモルフ)』 ブラムドの呪文が完成し、その体躯が縮み始めた瞬間、ルイズは自らの不安が目の前に存在したことを知った。 大きな翼が背中へとしまわれていく。 長い首が短くなりながら、その顎が縮んでいく。 長い爪が手足に収まり、その四肢が絞られる。 体中を覆っていた白銀の鱗はいつの間にか消え去り、その鱗に負けない白い肌へ姿を変える。 見上げていた二人の人間の首が緩やかにおろされると同時に、そのうちの一人、ルイズはメイジの証であるマントの留め金を外す。 何かが、期待に充ち満ちた顔をしたオスマンの視界をさえぎる。 ブラムドは人の姿となり、ただ静かに立ち尽くしていた。 空を閉じ込めたような青い瞳。 新雪のような真白い肌。 そして太陽の光を受けて煌めく銀髪は、先刻までその身を覆っていた鱗が姿を変えたかのようだ。 オスマンの顔に、マントをブラムドにかぶせたルイズの視線が突き刺さっていた。 正確に言えば、オスマンの伸びきった鼻の下に。 だが伸びていたのは半瞬に過ぎない。 何故ならあらわになるはずであったブラムドの胸元と下腹部は、ルイズがたった今取り外したマントに隠されていたからだ。 ルイズの眼差しは恐ろしいほどに鋭かった。 かつて学院に在籍していたルイズの姉、エレオノールもかくやというほどに。 オスマンが伸ばした鼻の下を戻し、何かを誤魔化すようにあごひげをしごき始めた瞬間、地の底から這い上がるようなルイズの声が響いた。 「オールド・オスマン」 「何かね? ミス・ヴァリエール」 額に一筋の汗をたらしながらも、声音が変わらなかったことは賛辞に値するだろう。 「私はこのマントを支えていなければなりませんので、服を一着持ってきてはいただけませんでしょうか?」 「んむ、心得た」 言うが早いかオスマンは学院へと飛び去り、その場には一人の少女と一人の女性が残される。 丈がわずかに足りないマントを巻き、夕日に染められたブラムドの姿はあたかも一枚の絵画のようだった。 数瞬の忘我。 「ルイズ?」 ブラムドに見とれていたルイズはブラムドの呼びかけに反応するのが遅れる。 そしてその顔を夕日以外の染料で真っ赤にしながら、高らかに抗議の声を上げた。 「ブ、ブ、ブラムド!」 「何だ?」 「女になったのなら、その肌をさらけ出すようなことは出来るだけしないで頂戴!」 「わかった。だが元々服をまとっていたわけではない。この姿になった瞬間に裸であることは仕方あるまい?」 思わず納得しかけたルイズだったが、それでも再び反駁する。 「で、でも裸になることがわかってるなら、服を用意してから変身したっていいんじゃないの?」 「なるほど、道理だな。ルイズ、お前は頭がいい」 そういいながら、ブラムドはその手でルイズの頭をなぜる。 学院の授業で実技が伴って以降、ほめられた経験のなかったルイズは我知らず涙をこぼす。 「どうしたルイズ?」 ブラムドの言葉に、ルイズは自身が涙をこぼしていることを知る。 慌てて心配がない旨を伝えようとするが、喉が詰まったように言葉が出てこない。 その様子にブラムドはその唇をルイズの顔に寄せ、こぼれた雫を舐めとった。 「ブ、ブ、ブラムド!?」 「塩辛いな。なんだこれは?」 「なんだこれはって、涙よ」 予測もつかないブラムドの言葉に、ルイズは一瞬惚けたような表情を浮かべ、端的に答える。 「妙なものだ。ルイズ、なぜ涙を出す?」 「わからないわ」 「ルイズにもわからないことがあるのか」 その言葉に、ルイズはブラムドの自身に対する強い評価を感じた。 繰り返される実技で、クラスメイトたちの視線は公爵家の子女への敬意から、落ちこぼれに対する見下すものへと変わっていった。 ルイズ自身、その状況に満足していたわけではない。 だがゼロの二つ名を冠せられるようになるまでに、見下されることに慣らされてしまった。 「ルイズ?」 再び涙をこぼし始めるルイズに、ブラムドは気遣わしげな視線を送る。 そしてルイズは自覚する。 自分を評価してくれるブラムドの態度に感動しているのだということを。 「だ、大丈夫、大丈夫よ」 初めてみる涙に、ブラムドは不可解な感情を味わっていた。 それは涙を初めてみることでわきおこったのか、人間に変わったことでわき起こるようになったのかはわからないが、けして不快なものではなかった。 そしてブラムドはその感情に従い、ルイズの頭をなぜながら、その体をそっと抱きしめる。 急ぎ舞い戻ったオスマンは、抱き合うルイズとブラムドの姿を見て、ミス・ヴァリエールと替わりたい、そう切実に思い、悔し涙に頬を濡らした。 前ページ次ページゼロの氷竜
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前ページ次ページデュープリズムゼロ 第三十四話『戦う理由』 「ねぇ…まだ食べちゃ駄目なの~?早かろうが遅かろうが結局はあたしの胃袋に入るのは変わらないじゃん…」 ミントは目の前に並ぶ豪華な料理を前にうんざりとした様子でルイズに問う。 「我慢なさい…それともあんた、あのお母様のお叱りをまた受けたいの?」 ルイズも又小声でミントにそう注意をするとチラリと母カリーヌを見やった…厳しい視線はバッチリとミントを捕らえている。 その様子に同じく厳しい視線を送るのはミントをまだ唯の異国のメイジとしか認識していないエレオノールで柔らかくニコニコと見つめるのは一つ下の姉カトレア。 ミントがルイズの実家を訪れて既に一夜が明け、ミントは朝食を摂る為に既に豪華な料理が並んだダイニングルームに招かれルイズと並んで席へと着いている。と、扉が開かれ一人の男性が堂々とした態度で現れた。 端正な髭を蓄え、モノクルを付けたまさに上流貴族、公爵としての威厳に満ちた風格。 ミントは一目でその男性がルイズの父ヴァリエール公爵である事を理解した。 「おぉ、久しぶりだねルイズよ。」 「お久しぶりですわ、お父様。」 何故ならルイズの姿をその目にした瞬間、公爵はその威厳が吹き飛ぶ程にデレデレと頬を緩めたからだ。 「さて…」 キリッと音を立て、公爵の鋭い視線が蘇りミントの姿を値踏みする様に見つめる。それを受けてミントも腰掛けていた椅子から立ち上がると公爵へと澄ました笑顔を向けた。 「初めまして、公爵さん。アンからはどういう風に聞いてるかは知らないけどあたしがミントよ。一応ルイズに召喚された使い魔のね。東方のメイジって事になってるわ。」 「あぁ、初めまして、ミス・ミント。君の事は陛下からは既に三度のトリステインの危機を内々に救った『救国の英雄』でありルイズと共に『大切な親友』だと聞いているよ。 一応ルイズの使い魔と言う事からヴァリエール家預かりの国賓として扱って欲しいとは伺っている。君には迷惑を掛ける形にはなるがこれからも陛下とルイズを頼む。」 「えぇそのつもりよ。一応帰る方法の目処が付くまではね。」 公爵はミントの堂々としたその物言いにアンとマザリーニから聞いて以来半信半疑であったミントが王族であるという話に真実味を感じ取っていた。 「待たせてすまなかった、それでは食事にしよう。」 厳かな雰囲気での食事が一段落付いた頃、唐突に口を開いたのはヴァリエール公爵だった。 「ルイズ、学園での生活はどうだ?」 極普通にありふれた質問、しかしそれは子を持つ親としては当然の心配であった。 「はい、相変わらず系統魔法に関しては失敗続きですが貴族としての何たるかはミントと共に学園で精一杯学ばせて貰っております。」 ルイズはナプキンで口元をそっと拭いながら父親の問い掛けに当たり障り無く答える。内心嘘を吐く事の後ろめたさと自分の系統が伝説の虚無である事を声を大にして自慢したかったがそれは出来ないのでグッと堪える。 「なーにが貴族としての何たるかを学んでるよ…ついこないだ覚えたのは皿の洗い方でしょうが…」 そんなルイズの内心を知らずミントは隣に座っているルイズにしか聞こえない程の声で意地悪く呟いてクククと笑う。ルイズは引き攣った微笑みは崩さない… 「ふむ、そうか…陛下はお前を高く評価していたがお前のそう言った所を評価して下さっていたのだな…しかしそんな陛下を唆しおって…全くあの鳥の骨め。」 ヴァリエール公爵が苛立たしげに口にしたのはマザリーニ枢機卿の所謂詐称であった。 「何かありまして?」 「先日、ゲルマニアとの共同でのアルビオンへの侵攻が決行される事が正式に決まったのだ。まだ年若い陛下をあの鳥の骨が唆したに決まっておる!!そもそもアルビオンを屈服させるのにこちらから攻め入る必要など無いのだ。 包囲線を密にしいてしまえば浮遊大陸であるアルビオンは直に音を上げるはずだ。今開戦しては兵力も国財をも悪戯に消耗するだけなのだ。」 ヴァリエール公爵はトリステイン国内でも良識ある貴族であるし国境を守り受ける立場にある、故に戦においては必勝を得る為に慎重な意見を持つ。それは決して悪い事では無い。 それでも… 「お父様は開戦には反対なのですか?」 ルイズの意外な問い掛けに一瞬公爵は目を丸くする。 「当然だ、わざわざ攻め入らんでも戦は幾らでもやりようがある。…………ルイズ、お前はまさか戦場に行きたいなどとは考えておるまいな?」 「…私は姫様に忠誠を誓いました。故に姫様が戦場に赴かれるならば共に行きます。」 公爵の言葉にルイズはそうはっきりと答える。予てより既にアンリエッタと共に闘いに赴く事はルイズは心に誓っているのだから… これがルイズにとっての父親への初めての明確な反抗だった… 「駄目よっ!!戦場なんて男の行く所よ、魔法も使えない貴女が戦場に行って何になるというの?」 「ルイズ…私も貴女の意思を尊重したいけどやっぱり心配よ…」 二人の姉からも同様に厳しくと優しくとそれぞれルイズを心配する声が上がる… そして母カリーヌはじっと厳しい視線でルイズを見つめ続けた。 「…ミス・ミント貴女もルイズが戦場に向かおうとしている事を止めないのですか?使い魔であるならば当然貴女もルイズと共に行く事になると思いますが?」 そして以外にもカリーヌが次に声をかけたのはこれまで我関せずといった様子をとっていたミントであった。 当然突然ミントにお鉢が回ってきた事で全員の視線がミントに集中する。 「ミント…」 ミントならば自分を肯定してくれる…そう思うと同時にルイズの脳裏には不安がよぎる。 「そうね…あたしも今アルビオンに攻め入るのは正直どうかと思うわ。」 「ほう?」 「あたしなら…そうね、ここから三年よ。三年あればゲルマニアとの同盟を利用した軍事改革で一気にトリステインの戦力を5倍…いいえ、10倍には出来るわ。勿論やるからにはアルビオンの連中は徹底的にボコボコよ。」 「「……………………」」 軽い調子で語られるミントの馬鹿げた構想にダイニングルームからは一瞬言葉が消え、ルイズは頭痛を抑える様に目頭を押さえて天を仰ぐ… それでもミントはそこで一度切り替えるかの様に表情を引き締めるとその視線をそのままヴァリエール夫妻へと向けた。 「…とは言っても、それはあくまで真っ当な戦争だったらの話よ。あたし達が本当にやっつけなきゃいけない奴は他にいるわ。それには残念だけどやっぱりアルビオンには今攻め込まないといけないと思うわ。 勿論あたしもルイズも前線で戦う訳じゃ無い、狙うのはこの戦争の裏でコソコソと卑怯な真似をしてる黒幕よ。」 ミントのその物言いに先程まで呆れていた夫妻が些かに興味を抱いたらしく崩れた姿勢を正す様に椅子に座り直し視線で続きを促すと静聴の姿勢をとった。 「あいつ等が水の精霊からちょろまかしたアンドバリの指輪を持ってる限りいつ誰がいきなり操られるか何て分かった物じゃないし、死人だって無理矢理操られて戦わされる事になるわ…あのウェールズみたいな事はもうあっちゃいけないの。 あんなふざけた悪趣味な真似をしてくる様な奴らを野放しに出来る?あたしには無理よ。だからアンも戦うって決めたんだろうし、ルイズだってそうでしょ? ルイズやアンが行くからじゃない、まして他の誰かの為なんかじゃ無い、結局あたし達はあいつ等のやり方が気に入らないから自分の意思で戦うのよ。」 「むぅ……アンドバリの指輪とな…」 公爵の表情が一気に曇る。先日のウェールズによるアンリエッタ誘拐未遂事件の顛末は聞いていたが成る程確かにミントの話を信じるとしてアレの存在を失念してはどの様な策も内から崩されるだろう。 「お父様…」 ルイズの思いを勇ましく代弁してくれたミントと同じように、ルイズは決意の籠もった視線を父に向ける。 しかし公爵はしばし唸る様に思案を続けた後に頭を大きく横に振ったのだった。 「ならんっ!!ルイズよ確かにアンドバリの指輪は驚異だ。ならばこそそれを鑑みた戦を我々が考え、トリステインを守るのが務め。 思う所もあるであろう…しかし!!わざわざお前達が進んで危険に飛び込む必要は何処にも無い。 ルイズ、お前はあのワルドの件で少しばかり荒れているのだ…戦が終わるまで屋敷に残れ、そして良い機会だ。婿を取れ、そうなれば自然と落ち着きもするだろう。」 「お父様っ!?」 「この話は以上だ!!わしはお前が戦に向かうのを何があろうと許す気は無い!!」 にべも無く強い口調で言い切って公爵は足早にダイニングから退室していく。ルイズは横暴とも言える父の態度に尚も抗議の声を上げたが二人の姉からそれぞれ嗜める声を受けて結局顔を伏せてしまった。 (…全く…) ミントもヴァリエール公爵の去って行く背を冷ややかに見送る。ルイズもそうだがその父親も不器用極まりないものだ…娘が心配なのは解るがあれを自分の親父がやったらと思うと段々と腹が立ってくる。 結局朝食はそのままお開きになり、ルイズは沈み込んだ気持ちのまま屋敷の自室で無為に一日の時間を過ごし、ミントは殆どその日一日カトレアにせがまれて身体の弱い彼女の話し相手になってやっていた。 自分の見聞きした話、学園でのルイズの話を面白おかしく語り、カトレアからは幼かった頃のルイズの話を聞く。 ついでにお世辞にも良好とは言えない自分のクソ生意気な妹マヤの事を語った際にはカトレアは「それはあなたに良く似てとても素敵な妹さんね。」等と随分的外れな事を言っていた。 ベッドの上から儚げな微笑むカトレアは髪の色と言い、纏っている天然でふんわりとした雰囲気と言い何となくだがエレナに良く似ているなとミントは感じた。 (親父やマヤ…ルウにクラウスさん達元気にしてるかな?………………ベル達やロッドは間違いなく元気ね…) ___ ヴァリエール邸 深夜 「起きなさい…起きなさいルイズ。…ったく、いい加減起きろ、このッ!!」 「ゲフッ!!」 双月が天上に輝く深夜、突然に自室で寝ていた所をミントに無理矢理に叩き起こされたルイズがベッドから蹴落とされた状態からノロノロと立ち上がり、寝ぼけ眼でミントを睨む。 「何なのよミント…こんな時間に人を叩き起こして…」 そう不平を言うルイズだったがそれも当然だろう。しかし、ミントは腰に手を当てたまま呆れた様にルイズを見下ろしたままだった。 「今からここを出て魔法学園に帰るわよ。シエスタにはもう昼間の内にあたしがこっそり用意した馬の所で待たせてるから、あんたも早く出発準備済ませてよね。」 「はい?」 何が何だか解らないと言いたいルイズを尻目にミントがルイズの荷物をさっさと鞄へと詰め始める… 「このままじゃあたし達マジでここに軟禁されるわよ。要するに家出よ。それとも何?あんたここに残って誰とも知らない男と結婚する?何もしないまま。」 「そんなの嫌よ!!」 ここでようやく起き抜けのルイズの思考の靄も晴れてくる…意地悪く言いながらミントはいつの間にか自分の出発準備を整えてくれていた。 ミントに放り投げる様に渡された自分の制服と杖が「ボスッ」と音を立ててルイズの手の内に収まる… 「そう、だったらさっさと行くわよ。」 言ってミントはルイズの返答に対して満足そうに笑った… ____ ヴァリエール邸 大正門 ルイズとミントはこっそりと屋敷を脱して何とか三頭の馬を連れたシエスタと合流を果たした。 道中何名もの遭遇するであろうヴァリエール家の衛士達についてはどうするのかというルイズシエスタ両名の疑問にミントは「眠っててもらうわ。」 と答えていたが結局正門前までそれらしき人物には遭遇する事も無く辿り着いてしまった。 「これは幾ら何でもおかしいわ…ここにはいつだって見張りの人間が居るはずよ。それなのに誰もいないだなんて…」 「でもお陰で誰も傷付けずに済んで良かったじゃないですか~。」 首を捻るルイズに対してシエスタは心底安心した様な表情を浮かべる…幾らミントとルイズの為とはいえヴァリエール家の人間に危害を加えるなど考えただけでも恐ろしい話だからだ。 「……残念ながら、そうでも無いみたいよ…」 「えっ?」 と、ミントは風に流された雲の隙間から覗く月明かりに照らされた暗がりの正門の向こうに立ちふさがる一人の人影を発見して手綱をグイと引くと馬の足を止めさせた。それにならってシエスタとルイズも己の馬の足を止める。 「恐らくはこの様な事だろうと思いました…見張りの者達は今晩は引き上げさせています……彼等ではいざという時に邪魔にしかなりませんからね。」 その静かな物言い、聞き慣れた声ににルイズの心臓はまるで鷲掴みにでもされているかの様な錯覚を覚え、顔中から脂汗が吹き出しそうになる… 「か…母様…」 そして、思わずミントの背中にも冷や汗が伝う…それほどの威圧感が目の前に立ちはだかる人物からは放たれていた。 「己の意思を貫くは尊き事…ですがそれには伴った力が必要なのです。貴女達が行く道は厳しき茨の道、それを思えばこの『烈風』という障害程度…見事乗り越えてみせなさい。」 『烈風』といえば生きた伝説のメイジ、一度その名が戦場に響けば敵は恐れおののき竦み上がり、味方は高揚するどころか巻き添えを恐れてその場から撤退を始めるという… その正体はルイズの母親カリーヌ・デジレであり、引退したとはいえ未だハルケギニア全土でも並ぶ者のいない無双の勇士。それを己を程度と評し今ミント達の前に立っている… 烈風が杖を振るい、風が夜を裂く様に踊る… ミントはいつの間にかすっかり乾いていた自分の唇をペロリと舐めるとデュアルハーロウを構えて馬から飛び降り、背に背負ったデルフリンガーの鯉口を切る… 「起きなさいデルフ、あんたの出番よ。」 「…起きてるよ、相棒。あんだけやばい相手を前にして寝てられるかよ。」 そうして遂に鉄仮面で口元を隠しているルイズの母親と対峙するのだった… 「…上等よ…………出し抜いてやろうじゃない…」 前ページ次ページデュープリズムゼロ
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「はぁ……」 本番30分前。楽屋の中でルイズはふとなぜ自分がこんなことをやっているのかと思いを馳せる。 ルイズは半年前から使い魔と一緒に国境を越えてさまざまな場所へと訪れた。 彼女たちはそこで歌を歌う。そこでさまざまな人を楽しませ勇気づかせなぐさめ励ましたのである。 しかし、こういう事になったのは彼女の使い魔の能力のせいに他ならない。 ルイズが召喚した使い魔は緑の髪を赤い髪留めで結んだ女の子だった。 最初はあの子全然喋らなかったからむちゃくちゃ焦ったわ……と過去のことを思い出して苦笑した。 だが彼女には歌があった。 彼女に刻まれた使い魔の紋章「ガンダールヴ」は彼女にありとあらゆる歌を歌わせることが出来るようにさせた。 彼女の歌声は学院生や教師、はたまた厨房で働いていた平民に限らずに使い魔すらも虜にした。 その姿を眺めていたルイズは誇らしいと思いながらもどこか複雑だった。 フリッグの舞踏会では彼女が呼ばれそこで彼女は素晴らしい歌を披露し、観客を魅了した。 その舞踏会を抜け出したルイズは一人夜空の下で風に当たっていた。いつの間にか涙が零れていた。 悔しかったのだ。と今になってルイズは思う。 使い魔は素晴らしい歌声で人を笑顔にすることができる。 でも自分は魔法も使えない「ゼロのルイズ」だ。それでは人を幸せにするどころか自分も幸せになることができない。 「はぁ……」 するとどこからともなく使い魔が現れた。 暗くてよく表情はわからなかったけど泣きそうな顔をしている気がした。 「なっ、なんであんたがここにいるのよ!」 そんなことを言った後でルイズは気づいた。自分は使い魔を見知らぬ人物がたくさんいるところに放り出して何をしているのかと 「まったく、ご主人様失格ね……」 すると使い魔の後ろにはルイズの友人であるキュルケが立っていた。 ルイズの姿が見えなくて使い魔が必死に探しているのを見かねて一緒に私を探しにきてくれたのだろう。 「ごめんなさい………」 自然と口をついてきた謝罪の言葉。その言葉にキュルケは驚きを隠せなかったそうだ。 でも使い魔はゆるゆると首を振り、私に歌を贈ってくれた。 その歌は頑なになっていた彼女の心を氷解し、勇気を与えてくれた。ルイズは感動して自然と涙を流していた。 そしてルイズは決心した。「私も一緒に歌を歌う」と それからというもの彼女は使い魔と一緒に歌の練習に励んだ。 使い魔である彼女は歌を知っている代わりに曲というものをあまり知らなかった。だからルイズは彼女に一音一音丁寧に教えてあげた。 練習は外れの草原で行われた。時折吹いてくる風が心地よかった。 「ルイズさーん、お弁当もってきましたよー」 このことを知ったシエスタというメイドはよくルイズと彼女にサンドイッチを作って持ってきてくれた。 その草原で一緒に食べたサンドイッチの味は忘れることは無いだろう。 「ん……はむ。」 ルイズはふと目の前にあったサンドイッチをつまんだ。 「……おいしい。」 そして使い魔品評会の日 彼女は使い魔と一緒に歌を披露した。その歌は聴く者を共感させ、感動させ、勇気を与えた。 アンリエッタ王女も涙を流して感動してくれた。 「あなたたちの歌をこの国で埋もれさせるのはもったいないと思うわ。 ぜひ、各地であなたたちの歌を広めてくださらないかしら?」 「そして、現在に至る……と。」 ルイズの独り言にじっと耳を傾けていた使い魔が不思議そうに首をかしげた。 「時々、ふと思っちゃうのよね。もし私がゼロのルイズじゃなくなってものすごい魔法を使えるようになったら… ううん!もしもの話よ。もしもの話。私はどうなっていたのだろうか……ってね。」 不思議そうに首をかしげる彼女。それに構わずにルイズは続けた。 「でも、私はあなたに出会えて本当によかったと思ってる。あなたと出会えなかったら世界中を回ることも出来ないし、人を喜ばせる喜びを知ることも無かったから……」 最近涙もろくなったとルイズは思う。 彼女と一緒に世界中を回って歌を歌うという事がどれだけ自分にとっても幸せな事か。本当にわかったかもしれなかった 彼女と一緒にユニットを組むようになってからルイズは彼女のことを「使い魔」と呼ばなくなった。 彼女は立派な「パートナー」だから――― 「ルイズさーん! 本番あと10分前でーす! スタンバイお願いしまーす!」 シエスタは今ではルイズ達の敏腕マネージャーとして活躍してくれている。 彼女の作ってくれるサンドイッチは今でも私の大好物だ。 「はーい!」 ルイズは笑顔で返事を返した。 はじめてステージに立ったときはとても緊張したけど今ではその緊張感を楽しめる様になっていた。 「行こっか! ミク!」 ルイズはパートナーの名前を愛しげに呼びかけた。 「VOCALOID2」の初音ミクを召喚
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ルイズが変わったのは、春の使い魔召喚の儀式からである。 と言っても、当時のわたしはルイズにさしたる興味を持っていなかったので、これは後になって友人に聞き知ったことだ。 ゼロのルイズが平民の女の子を使い魔にしたという話は、少しの間、話題になった。 リリイという名の、その使い魔は、コウモリのような羽根があったり、犬のような耳を生やしていたりと、どう見ても亜人であったのだが、 その女の子が大した能力がなさそうな人畜無害な見た目をしていたり、羽根があるくせに飛べなかったりということで、ゼロのルイズに亜人が召喚できるはずがないという偏見から、そう噂されたのだ。 魔法の成功率ゼロのルイズが使い魔の召喚に失敗して、その辺りを歩いていた平民の女の子を捕まえてきて仮装させて使い魔扱いしている。 そんな根も葉もない噂を流されて、しかしルイズは何の反応もしなかった。 友人に言わせると、ここからしてありえないということだが、わたしは、それをおかしいと思えるほどルイズの事を知らない。 そして使い魔召喚の儀式の翌日、ルイズの使い魔が決闘をすることになる。 相手は、ドットの土メイジ、青銅のギーシュ。 決闘に至った原因は、リリイのせいでギーシュが二人の女の子と付き合っていたのがバレて、フラれたとのことだが、そこはどうでもいい。 見た目はどうあれ、リリイは亜人である。ならば、その戦い方を見ておいて損はないだろうと、わたしは考えた。 もしも未知の魔法でも使いこなせるようなら、その知識を得ておくことは決して損にはならないのだから。 だけど、期待は裏切られる。 リリイは、普通の平民よりは強かった。 だけど、それだけの話。ギーシュの作り出した一体目の青銅ゴーレムを破壊したまでは良かったが、彼が六体を同時に生み出した後は、数の暴力に負けて敗れさった。 そこで、わたしのルイズとその使い魔に対する興味は消えた。 たから、わたしの使い魔である韻竜のシルフィードに、二人が夜になるとこっそりどこかに出かけていると聞かされても、何も思わなかった。 ルイズも、その使い魔も自分が興味を向けるだけの価値のある存在ではない。 その認識を改めたのは、かなり後になってからなのだけれど、きっかけになったのは、学院に土くれのフーケを名乗る盗賊が現れたときだったのかもしれない。 学院の宝物庫を襲ったフーケの討伐に名乗りを上げた三人の一人がルイズであった。 もっとも、実際に名乗りを上げたのはルイズだけで、残りの二人、キュルケはルイズに対抗してみただけであるし、わたしはそんなキュルケが心配で付き合っただけである。 そして、わたしたち三人とルイズの使い魔のリリイとフーケの情報を持ってきた学院長秘書のミス・ロングビルの五人はフーケのアジトと思われる廃屋に向かい、そこで奪われた宝物を見つけた後、フーケの巨大な土ゴーレムに襲われた。 この時、不可解なことがいくつか起こった。 わたしやキュルケでは、どうにも対抗できなかった土ゴーレムに、自分の身長よりも長大な剣を持ったリリイが立ち向かったのだ。 ギーシュのゴーレムにすら敵わなかったはずのリリイは、フーケの巨大ゴーレムと五分に渡り合っていた。 もちろん、巨体であり、いくらでも再生するゴーレムを剣一本で倒せる道理はない。 だけどゴーレムも、素早く動き剣で容易くゴーレムを切り裂くリリイを倒せず、しばらくの膠着状態の後。土ゴーレムは自然に崩れ落ちた。 その後である。 フーケは逃げ出したらしい、自分とミス・ロングビルは、あと少し辺りを調べてから帰るから、先に宝物を持って帰って欲しい。 そう、ルイズから連絡があったとリリイが言い出したのは。 思い返せば、ルイズとロングビルは、わたしたちが廃屋に入ったときに、周囲を見てくると言って姿をくらませたままである。 その時のわたしは、冷静な判断力を失っていたのだと思う。 メイジとその使い魔は、精神で繋がっている。だから、離れていても連絡をしてくることが出来るのだから、これは不思議なことではない。 その程度にしか思わなかったのだが、思い返してみれば、何故ルイズにフーケが逃げたと判断できたのかを疑問に思うべきだったのだ。 そう、これも後になって分かったのだが、フーケは逃げてなどいなかった。捕まり、拘束されていたのだ。ルイズの手によって。 ルイズの目的が、フーケを捕まえて官憲に引き渡すことではなく、自身の手駒とすることだと知ったのは、ずっと後になってからの話。 わたしたちに遅れて二人が帰ってきたとき、ロングビルは着ていた服が引き裂かれ、肌も露わな姿で憔悴した顔をしていて、その理由が分かったのは、これもかなり後になってからのこと。 ルイズは、フーケに襲われた結果だと言っていたが、それは嘘だろう。ミス・ロングビルの正体がフーケなのだから。 キュルケは何かを察していたが、その時点では教えてくれなかった。 ともあれ、そこでルイズとの縁は切れるのだと思ったのだけれど、そうはならなかった。 それから、何日もの日々が過ぎたある日のことである。 ルイズが、トリステイン魔法衛士隊の隊長と出かけるのを見かけたキュルケが、後を追うと言い出したのだ。 そして、その後わたしたちが魔法学院に帰ることはなくなる。 ルイズたちの目的はアルビオンに向かうことであり、とりあえず港町ラ・ロシェールの前で賊に襲われていた彼女たちに加勢したわたしたちは、不可解なものを見ることになった。 そこにいたのは、ルイズとギーシュと魔法衛視隊隊長でありルイズの婚約者であるワルド子爵。ルイズに個人的に雇われたのだと言って一緒にいた、目が死んでるミス・ロングビル。 そして、わたしたちと同年代の亜人の少女。 ルイズの使い魔と同じ種族に見えるその少女が、リリイ本人であると聞かされたときは、目を疑った。 何をどうすれば、あの小さな女の子が急に成長するというのか。 とはいえ、驚いてばかりもいられない。 夜も遅かったので、ラ・ロシェールに宿泊することにしたわたしたちは、ルイズたちが乗るアルビオン行きの船が出るまでの間、そこに留まることにした。 そして、二つの事件が起こる。 一つは、早朝のリリイとワルドの決闘。 かつてギーシュにすら敗れたリリイは、スクウェアメイジであるワルド子爵とすら互角以上の実力を見せた。 そして、もう一つの事件は夜に起こった。 アルビオンは今、王党派と貴族派に分かれて戦っていると聞く。 その一方。貴族派に雇われた傭兵が宿を襲ったのだ。 その時、ワルド子爵は二手に分かれて、片側が傭兵の足止めを、もう一方はアルビオンに向かう船に乗り込むべきだと主張し、わたしも同意した。 それは正しい判断であったはずである。真相を知っている今では、そうではないとわかるが、あの時点で知りうる情報からでは、それ以上に正しい判断ができるはずがない。 そのはずなのに、ルイズはその主張を退けた。 それが、仲間を置いて自分だけが逃げるのは嫌だなどという感傷であれば、わたしもワルド子爵も黙殺したのだろうが、そうではなかった。 どのみち船が出るのは、翌日である。ならば、それまでに傭兵たちを倒してしまえばいい。 そう言った彼女には、それができる自信があったのだ。 そして、現実に傭兵たちは、わたしたちの前に倒れた。 それは、ほとんどがリリイの仕業であった。 ルイズの防衛をわたしたちに任せて一人で突撃したリリイは、強かった。 それだけではない。いかにスクウェアメイジと五分に戦える実力を持っていても多勢に無勢、無傷で戦えるはずもないのだが、たとえ傷を負っても ルイズの唱える聞いた事もない呪文ですぐに癒されていたのだ。それは、敵対している傭兵たちからすれば不死身の怪物と戦っているような錯覚を覚えさせただろう。 そうして全ての傭兵を打ち倒したわたしたちは、なし崩しに全員でアルビオンに向かうことになった。 何故、わたしとキュルケまで? と気づいたのは、勢いでマリー・ガラント号という船に乗った後。 その後、空賊に扮したアルビオン皇太子の乗った空賊船に襲われたり、それらと戦い皇太子の正体に気づかずに捕らえ拘束してしまったりという珍事はあったが、わたしたちは、無事にアルビオン王城ニューカッスルに到達した。 そこで初めて、わたしとキュルケは、ルイズたちの目的がトリステイン王女がアルビオン皇太子ウェールズに送った手紙の回収なのだと知ったのだが、それもどうでもいいことである。 より重要なのは、実はワルド子爵がアルビオンの貴族派レコン・キスタと通じており、手紙とウェールズの命を奪わんとしていたことであろう。 結論から言ってしまえば、彼は上手くやった。 手紙をルイズから預かり、ルイズと結婚式を挙げたいと訴え、ウェールズを王党派の軍人から引き離し、見事その胸を貫いた。 だが、そこには一つの計算違いがあった。 ワルド子爵は、ルイズには力があると信じていた。そして、その力を自身の欲望のために利用しようと考えていた。 実際、ルイズには力があった。だけど、それはワルド子爵に制御できる程度のものではなかったのだ。 結婚式の時、ルイズは遅れて礼拝堂にやってきた。 リリイとロングビルに持たせた大きな風呂敷包みが、なんだか不安を誘ったが、そこはみんなでスルーした。 そして、いざ始祖ブリミルへの誓いをというときになって、ルイズはワルド子爵に言ったのだ。 「何をそんなに焦っているのだ?」 その言葉で、わたしたちは気づいた。 幼いときからの知り合いで、婚約者であるはずのワルド子爵は、この旅の間、発情期の孔雀のようにルイズに自分をアピールし続けていた。 まるで、この機会を逃せば、もうルイズを手に入れることが出来なくなるのだというように。 ルイズを自身の手駒として手に入れようと考えていたワルド子爵の考えは、当のルイズ本人に看破されており、自身の望みが果たせないことを理解した彼は、正体を明かすと同時にウェールズの命を奪った。 そして、手に入らないのならばとルイズの命を奪わんとしたとき、ルイズが隠していた能力を見せる。 ルイズには、ワルド子爵と互角の戦闘力を持つ使い魔のリリイがいる。普通に考えれば、ワルドに勝ち目はない。 だが、風のスクウェアメイジには、偏在という魔法がある。 それは、自身とまったく同じ能力を持った分身を生み出す魔法。いかにリリイが強くとも本体を含めて五人ものワルド子爵に勝てる道理はない。 そして、リリイ以外の人間。わたし、キュルケ、ギーシュ、ルイズ、ロングビルの五人には、残念ながらワルド子爵に勝てるほどの能力はない。 ゆえに、ルイズの生存は絶望的なはずであった。 この時ルイズが使った魔法は、原理としてはサモンサーヴァントに似たものだったのだと思う。 離れた場所にいる者を召喚する魔法。違うのは、それらは複数であり、すでにルイズと契約を済ませ命令を聞く存在であったこと。 現れたのは、オーク鬼や翼人や吸血鬼といった亜人たち。 毎夜どこかに出かけていたルイズは、それらを倒し配下としていたのだ。ちなみに、前の事件でフーケを捕らえたのも、彼らだったのだという。 平民とは比較にならない強靭な肉体を誇るオーク鬼や、先住の魔法を使う翼人と吸血鬼。 それらは、ただでさえメイジにとってすら脅威となりうる戦闘力を持つのに、ルイズの下で働かされ戦いを繰り返すことで、それぞれがリリイと互角の実力を持っていた。 数で、こちらを蹂躙しようとしたワルド子爵は、より多くの数で敗れ去ったのだ。 だけど、ルイズは裏切り者であるワルド子爵を殺しはしなかった。 それが、婚約者への未練であるのではないかと思ったのは、一瞬のこと。 ルイズは、倒れたワルドの服を剥ぎ、同時にリリイにも脱ぐようにと命じた。 その後、何かを察したキュルケに一時放り出されたわたしは、しばしの時間の後、やけにグッタリした顔の皆と再会する。 全員。ルイズもリリイもキュルケもロングビルもギーシュも、妙に上気した顔をしていて服も乱れていたのだから、さすがにわたしにも何をしていたのか理解できるのだが、なんの目的でそんなことをしていたのかは分からなかった。 キュルケも、ルイズの目的は分かっていなかったはずなのに、躊躇いなく参加するのは如何なものか。 まあ、目的の方も尋ねてみればすぐに答えが返ってきたのだけど。 ルイズには、性魔術という魔法が使えて、それを使うと魔法を使うための精神力を簡単に回復できるのだそうだ。 それで、亜人たちを召喚するのに使った精神力を回復させた理由は、レコン・キスタを倒すことであるとルイズは言った。 無茶だ。と、わたしは思ったが、彼女には勝算があった。 礼拝堂に遅れてやってきたルイズたちが持ってきた荷物。それは、この城中から集めてきた宝物。 呆れたことに、火事場泥棒をしてきたルイズが運んできた物の中に古いオルゴールがあった。 それが、勝利をもたらすのだと言われても、納得できようはずもない。 とはいえ、思ったより早く攻めてきたレコン・キスタを相手に逃げる暇のなかったわたしたちには、ルイズの賭ける以外に他に手立てがなかった。 ルイズがオルゴールから得たものは、虚無の魔法。 その魔法が、どれほどの威力を持つものなのか、わたしたちは知らなかった。多分、ルイズも正確には予想できてなかったに違いない。 だって、一個人の使う魔法が、一撃で万単位の兵士を吹き飛ばすだなんて、誰に予想できるというのだ。 大爆発の魔法の後に敵兵士の襲いかかった亜人の群。それが、レコン・キスタを完膚なきまでに叩きのめし、敵軍の首魁クロムウェルすら虜囚にする。 それで、全てはおしまい。 それが、思い違いであったと、わたしたちはすぐに思い知らされる。 ルイズは、別にアルビオンの王党派を救おうなどとは考えてはいなかった。 ただ単に、自分の集めた戦力とここで手に入れた魔法を試してみたかっただけなのだ。 そして彼女は、もう充分だと判断した。のみならず、クロムウェルから人の心を操るアンドバリの指輪というマジックアイテムすら奪い取った。 その結果、ルイズは彼女が欲するものの足がかりを手に入れたのだ。 この世界全てを蹂躙する力と軍隊を。 そうして初めて、彼女は自身の正体と目的をわたしたちに話す。 ここではない、ある世界での物語。 そこには、魔王と呼ばれる邪悪がいて、そいつは勇者たちによって倒された。 だけど、魔王は自身の魂だけを切り離し、使い魔に持たせ逃れさせた。 それをルイズが召喚してしまった。 魔王の魂を持つ使い魔を。 そして事故が起こる。 使い魔、リリイの持つ魔王の魂がルイズに入り込んでしまったのだ。 これは、お互いにとって不本意な事態であったろう。 ルイズとしては、そんな得体の知れないものに肉体を乗っ取られるなど、望んでいたはずがないし、魔王としても、少女の肉体に憑依するなど納得できようはずがない。 なにしろ、性魔術を使うに当たっては、男性を相手にしなくてはならなくなったのだ。リリイという、代わりを務めてくれるものがいなければ発狂していたかもしれないとは本人の弁である。 なんにしろ、魔王は自身の望みを叶えるために活動を開始する。 リリイを育て、戦力を集め、元の世界に帰る方法を探す。 封印された肉体を取り戻すために。かつて、自身を打ち倒した者たちを責め滅ぼすために。 今、レコン・キスタとアルビオン王党派を、アンドバリの指輪の力で手に入れたルイズは、ハルケギニアの全てを支配するつもりである。 元の世界を攻める戦力を手に入れるという理由ために。 そして、今わたしやキュルケはルイズの下でハルケギニアを征服する軍体の指揮を取っている。 わたしたちとは、わたしとキュルケとギーシュとワルドと、ついでに更に成長したリリイのこと。 ルイズがわたしたちに秘密を話したのは、ようするに仲間になれという宣言であり、それ以外の選択を許さないという通告である。 わたしたちに選択肢は与えられていなかったのだ。 ただし、わたしは条件を出した。 わたしタバサ、いや、シャルロット・エレーヌ・オルレアンの命は、母を守ること。復讐を果たすこと。そのためにある。その二つを叶えてくれるなら、従おうと答えた。 ルイズは、それを了承した。それどころか事情を聞いて、毒を飲まされ正気を手放した母を癒してくれるとまで言った。 その勇気があるならばと、前置きしてだったが。 母は、優しい人だったと記憶している。 その母が、魔王の配下となった自分を見てどう思うのか? そんなことを今の今まで、考えていなかった、むしろ考えないようにしていたわたしは、自分に勇気などないことに気づかされた。 だからといって、ルイズの仲間になるのをやめるという選択肢はない。ルイズはそんなことを許さないし、あのままガリアで働いていても救いなどないと分かりきっていたのだから。 だから、ルイズの力を借りて連れ出した母は、今も気がふれたままであり、執事のペルスランに任せきりになっている。 わたしにとって意外だったのは、キュルケが素直にルイズの仲間になったことである。ギーシュのことはどうでもいい。 元々ルイズと仲がよかったわけでもはなく、ルイズの世界征服にも興味を持たないであろうキュルケが何故と思ったわたしに、彼女は苦笑と共に答えた。 「だってねえ。本当にルイズが魔王に完全に乗っ取られていたら、わたしたちは今生きてないわよ」 キュルケが魔王の過去の話を聞いて最初に感じたのは違和感であったという。 魔王が、自身の話した通りの存在なら、それは人の命を虫ケラの如く扱い、自分たちのことなど、さっさと口封じに始末しているか、どこかで使い捨てにしているだろう。 なのに、それをしなかった理由はどこにあるというのか? それは、魔王に乗っ取られた身の裡に、ルイズ本人の心が残っているからに違いないとキュルケは考えた。 ならば、魔王からルイズに守ってもらっている自分としては、その借りを返さないわけにはいかないではないか。 そんなことを言う親友に、わたしは今更ながらに彼女がルイズを嫌ってなどいなかったのだと、それどころか好きだったのだと気づかされた。 そうでなくて、借りがあるからと、家族のいる祖国にまで戦争を仕掛けようという魔王に手を貸そうなどと誰が考えるものか。 わたしは、わたしと母を取り巻く過酷な運命から救ってくれたルイズに感謝している。 わたしは、キュルケまで、こんな運命に巻き込んだルイズを憎んでいる。 わたしは多分間違っているのだろう。だけど、今更道を違えることは出来ない。 この先、わたしたちにどのような結末が待っているのかは分からない。分からなくても進むしかないのだから。 小ネタで姫狩りダンジョンマイスターからリリイ召喚
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うまく寝付けない夜には、ルイズは使い魔のところにいく。 魔法学院の中庭には、ミスタ・コルベールが建ててくれた工房があり、ルイズの召喚した使い魔は毎日そこで作業をしているのだ。 寝巻きにマントを引っ掛けた格好で、ルイズはそっと階段を降り、中庭に出た。案の定、工房にはこうこうと明かりがついていた。 しゅ……しゅ……と、木に鉋をかける心地の良い音が聞こえてくる。ルイズはその音を聞きたくて、足しげく工房に通うのかもしれない。 ランプにぼんやりと照らし出されながら、ルイズの使い魔は作業をしていた。 入ってきたルイズに気がついて、使い魔が顔を上げた。 「……どうした。眠れねえのか」 「うん……ちょっとね」 「今夜は少し冷えるから、毛布でもかぶってな」 「……うん」 使い魔の差し出す毛布にルイズは包まった。使い魔の邪魔にならないように隅に腰を下ろし、ぼんやりとルイズは工房を見渡した。 大き目の掘っ立て小屋のような工房には、様々な木でできた部品が並べられている。ミスタ・コルベールが手伝って『錬金』で造った部品もたくさんあった。 溶接の作業には、最近すっかりルイズの使い魔と仲良くなったギーシュが担当しているようだった。 (……はじめは、決闘でワルキューレにぼこぼこに殴られていたのにね) くす、とルイズは微笑む。小型のオークのような外見に反して、使い魔はからっきし弱くて、ギーシュのゴーレムにまったく勝てなかった。 顔を二倍ぐらいに腫らした使い魔のために秘薬を探したのも、今となってはいい思い出である。 黒いメガネをかけたキザな使い魔。なるほど、どこかギーシュに似てるかもしれなかった。 (それにしても……) ルイズはあらためて使い魔の造っている『船』を見た。すらりとした船体はハルケギニアのそれとはずいぶん違っている。 火竜のブレスのように真っ赤に塗られているそれは、見れば見るほど奇妙だった。 何より、帆がない船なんてあるだろうか? 使い魔は、宝物庫で見つけた『えんじん』というのを使えば、必ず飛ぶと言うけれど。 ルイズは一息ついてタバコ(巻きタバコというらしい)を鼻からくゆらす使い魔に声をかける。 「ねえ、本当にこんな船が飛ぶの……? 風石も魔法もなしに浮かぶなんて、なんだか信じられないわ……」 「……俺の世界じゃ魔法がねえからな。みんなこうして造るのさ。前に……俺の戦闘艇を造ったのは、おまえさんと同い年の娘だったぜ、ルイズ」 「ふぅん……」 どんな子だろう、とルイズは毛布にあごを埋めた。自分と同い年でこんな船を造った娘がいる。 まだ自分は魔法一つ使えないのに。でも、使い魔の世界では魔法を使える人間はいないらしい。 「その娘もオークなの?」 何気なく聞いてみたのだが、使い魔は大きな口をあけて笑い出してしまった。なにやら見当違いのことを言ったらしい。ルイズの顔が赤くなる。 「はあっはっはっは……! フィ、フィオがオークだと……? はっはっはあ……! こりゃいい、フィオに聞かせてやりたいぜ……!」 「いいわよ……。何も笑わなくてもいいじゃない……」 すねるルイズに、使い魔はにやりと笑ってみせた。 「いいや……俺の世界でも人間は人間さ……魔法が使えない以外は全部こっちと同じだ。俺だけさ、魔法がかかってるのはな。 フィオは美人だ。おまえさんみたいにな、ルイズ」 「嘘ばっかり……」 使い魔が自分はオークではなく人間だというので、タバサに頼んで解除魔法をかけてもらったこともある。結果は変化なしだったが。 「人間の世界に飽きただけさ」と笑う使い魔は、どこまで本気かわからなかった。 今夜の仕事は終わりなのか、使い魔は道具をしまい、工房の窓を閉める。ルイズも毛布をかぶったまま立ち上がった。 使い魔は工房にベッドを作り、普段はそこで寝ているのだ。 工房を出るとき、ルイズは使い魔を振り返った。 「ねえ……その『飛行機』が完成したら、それで、本当に飛んだら……」 「飛ぶさ。飛ばねぇ豚はただの豚だ」 「……私も乗せてくれる? その『飛行機』に」 「もちろんだ」 使い魔はランプに手を伸ばした。火を吹き消そうとして、思いついたようにルイズを見つめた。 「だが……飛行機に乗せる前に、一つだけ約束だ、お嬢さん」 「なに……?」 「夜更かしはするな。睡眠不足はいい仕事の敵だ。それに美容にも悪いしな……。さ、もう寝てくれ」 「もう、また子供扱いして……」 「いいや、大人だからさ」 ルイズはぷっと頬を膨らませた。こういう仕草が子供っぽいのだと自分でも気がついているのだが。 使い魔は黒メガネを外し、ふっとランプを吹き消した。明かりが消える一瞬――使い魔の顔が、人間の顔に見えて、ルイズはごしごしと目をこする。 しかし、もう一度見てみると、そこにいるのは相変わらずの豚の顔なのであった。 「おやすみルイズ。いい夢をみな」 「……おやすみ、ポルコ」 ルイズはばたんと扉を閉めた。 おわり -「紅の豚」のポルコ・ロッソを召喚
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トリステイン魔法学園、使い魔召喚の儀式 ルイズが召喚したのは顔に3本の長い傷跡のある黒ずくめの中年の男であった。 「平民だ!ルイズが平民を召喚したぞ!」 「しかも何だよあの男どう見てもただのオッサンだぜ」 垣原(何だこりゃ一体オレは確か新宿にいて…。) ルイズ「ねえちょっと!」 垣原(またオヤジに殴られてる内に気絶して外に置き去りにされちまったか?) ルイズ「ちょっと!ねえあんた聞いてるの!?」 垣原「…悪いなお嬢ちゃん今ちょっと考え事してんだ、消えてくれ。」 ルイズ「ハァ!?何言ってるの使い魔がご主人様を無視する気?」 垣原「…てめェ今何つった?」 ルイズ「つ、使い魔がご主人様を無視する気だけど」 垣原「フッ…お嬢ちゃんがご主人様でオレが使い魔か(まさかこんなガキの女がSM嬢やってるとはな…) 言っとくがオレはママゴトに付き合う気はねェゾ。」 ルイズ「ママゴトですって?生意気な使い魔は教育が必要なようね、ついて来なさい」 垣原「こりゃスゲーな…ホントの城みてェだ、最近のラブホテルは凝ってんな。」 ルイズ「何をぶつぶつ言ってるのよここが私の部屋よ早く入りなさい」 部屋に入るなり男は着ていた服を脱ぎさり その体にはロープが複雑に交差状に結び縛られていた ルイズ「なななな何で服を脱いでるのよ!…それに何よその格好」 垣原「何でって…脱いだ方が気持ち良いからだろ ホラどうしたご主人様、そのムチで生意気な使い魔をひっぱたくんだろ。」 ルイズ「や、やるわよやればいいんでしょ…やれば」 部屋に軽く乾いた音が響く 垣原「どうした、全然力が入ってねェゾ。」 ルイズ(な、何なのよコイツ) 垣原「ホラどうしたやれって。」 ルイズ「エイッ!エイッ!エイッ!」 垣原「………」 ルイズ「ハァハァハァ…ほ、ほらもうこれくらいで終わりにしといてあげるわ …さっさと服を着なさいよ」 垣原「…なぁ、そこにあるオレの上着に長げェ針みてェなの入ってンだろ ソイツでオレを刺してみてくんねェか。」 ルイズ「え?そんなことしたら血がいっぱい出ちゃ…」 垣原「いいからヤレ!!」 ルイズ「ヒッ!……何なのよコイツ…いやもう…ヒグッ… なんでいつも私ばっかり…ウッ、ヒグッヒグッ……」 垣原「…ダメだなこりゃ。」 完